涙、涙のツアー通算10勝目から週があけてしまえばもはや、あの余韻はひとかけらも残っていなかった。というよりも、あの翌日にはもう、冷めていたといってもいい。

「あの日は帰りに渋滞に巻き込まれて。帰ったらもうぐったりしていて、家族とはもちろん、おめでとうという雰囲気にはなりましたけど、“ごめん、すぐに寝るわ”と。それで、一晩寝たら、もう気持ちは切り替わっていましたね」と、笑った。

もちろん、さまざまな葛藤を乗り越えた末に味わう２年ぶりの美酒は、格別だった。
「月曜日にお祝いでいただいたシャンパンを一口だけ飲みました」。
しかしそれだけで、慌ただしくまた家を出てきた。

「そのあとはいつもと変わらない。それがプロゴルファーというか、普通のこと。これが初優勝だったら違ったと思いますけど、もう10勝目ですしね」と、さらりと流して、もう次を見据えている。

今週のダンロップフェニックスは、２００８年に２位につけたあとは、さしたる成績を残せていない。
また昨年は、プレジデンツカップの代表メンバーに選ばれて、出場が出来なかった。
２年ぶりのフェニックスカントリークラブ。この日のプロアマ戦は、特に風が強かったこともあり、「難しく感じた」と、なおさら警戒心も強まる。

「４日間で、林に入れることも何度かあると思うがそのときは潔くペナルティを払って、横に出す。パーかボギーで上がるのがやっと、ということもあると思う。相性の良い先週に比べて今週は、ボギーの数が多くなるのも仕方ない」。

マイナス要因を冷静に受け止めつつ「難しいからと、フェアウェイキープを優先しすぎると、せっかくのチャンスも生かせない。フェアウェイキープをベースに、攻めて行きたい。今のショットの状態であれば、良いプレーが出来ると思うし」と、心はしっかり前向きだ。

このダンロップフェニックスは、ルーク・ドナルドら世界ランカーが今年も集い、「日本ツアーの中でも世界を感じられる素晴らしい大会」と、来季から米ツアーに本格参戦する21歳には、なおさら気合いが入るところだ。

前日火曜日には、テレビマッチでそのドナルドと一緒に回って、「僕と身長も変わらないし、自分と重ねて見ることが出来る」と得るものも多かった。
先週はそれまでの89位から、世界ランクも71位とジャンプアップ。「意外と上がったなあ！」と、嬉しい驚きがあっただけに、「今週もチャンスだと思っています」とますます気合いが入る。

• 石川 遼