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ANAオープンゴルフトーナメント 2011
伊藤誠道くんは6位
バーンズと、首位で並んで出た最終日。輪厚は16歳に、ついに本性をあらわした。この日は朝からこぬか雨。激しくはないが、降り止むということもない。しっとりと濡れそぼった洋芝が、ねっとりと絡みつく。「風もあり、ランも出ないので、僕みたいに距離が出ないのは厳しい」。
この日は気温もぐっと下がった。「天候はみんな一緒」とは言いながら、8月8日の誕生日は「夏生まれで寒がりなので」。
2日目から続けて首位に立った3日目までのようには、やらせてもらえない。なかなかフェアウェイも捕らえられない苦しい1日。
パットはことごとく、カップをなめた。
「狙ったところに打てたのに」。
プロゴルファーの父・一誠さんは、「偉大な父で、偉大な師匠」。1歳の誕生日に譲り受けたというお下がりのパターは「父親の魂が入っている。オヤジスピリッツ。そして僕の16年も入っている。一生使い続けたい」と、他の何にも変えがたい1本。読みも、ストロークも完璧だった。
「全部惜しかったといえば、惜しかったんだけど、外れちゃったのは、芝1本のいたずら。それと、僕の弱さと」。
昨日まで、目標にしていた14アンダーはこの日、スタート前にさらにハードルを上げた。歴代覇者の矢野東に「俺と同じスコアで上がって来い」と、言われて決めた。通算15アンダーは、2008年大会の優勝スコアだ。
「でも、今日は輪厚を見た。今日は、輪厚をプレーしました」と伊藤くんは、ようやくコースの本当の怖さを見せつけられた思いでいる。
首位タイからのスタートは、「確実に狙える位置にいた」。バーンズだって、結局はひとつしか伸びていない。「簡単に言ってしまえばひとつ取ればプレーオフ。2つ取れば優勝だった」。
目標の先輩、石川遼に続く高校生Vに、今にも手が届きそうな大健闘。
「でも、そのひとつ、ふたつが難しい・・・」。
難条件にも「耐えるゴルフが出来た」という実感はあるものの、同時にそのすぐ先に立ちはだかる壁の分厚さも、伊藤くんはちゃんと感じていた。
この日74は、結局通算10アンダーにも「スコアに満足はしていない」。でもツアーで2日連続で首位に立ち、まして最終日最終組を経験した16歳など、いまだかつていなかった。
「今日は昨日とは、また違った緊張感。その中で楽しむことも出来たので。今日の経験は、スコア以上だったのかな」と、貴重な体験を噛みしめた。
当時ツアーで自己ベストの10位につけた昨年の三井住友VISA太平洋マスターズのときよりも、「地に足つけたプレーも出来た」という。石川遼に続くスター誕生の力強い足音を、輪厚の森に響かせた4日間。
「まだアマチュアなので。雨のゴルフも風のゴルフも勉強ととらえて頑張りたい。プロになったときに、この経験を生かせればいい」。
この春から杉並学院高に通う1年生は、ゴルフの取り組み方が変わった。「練習の仕方、考え方。大人になった」。先輩の浅地洋佑くんと毎日、日が暮れるまで練習を続ける中で、「目標を明確にしたり、ふざけてないで、真剣に取り組もうと思ったり。コーチと親と、いろんな方に支えられて少し大人になれたと思う」。
この4日間があればこそ、実感出来たことでもある。
昨年は「優勝するって、言うだけなら簡単だよな」と、どこか現実味が持てなかった10月のアジアアマ。翌年のマスターズの出場権がかかった大一番。「今年は優勝を狙います。今年は有言実行です」。それも輪厚での経験が、16歳に言わせたことのひとつである。