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続いて重永亜斗夢が仙台へ【動画UP】(3月5日)

谷原秀人に続いて、すぐ翌日の5日水曜日に仙台入りしたのは子どもたちのスーパーヒーロー?!。“アトム”が子連れの実技講習。本家本元はジェットの限りに空を飛べるがこちらのアトムは飛行機嫌い。おまけに寒さも大嫌い。この日の最低気温は2℃。仙台市立田子小学校の安部啓司校長先生は「こちらでは普通ですよ」とこともなげに仰ったが、出身の熊本県では「こんな寒い日はほとんどないので」用を足して、手を洗った水の冷たかったこと。子どもたちが待つ体育館は「暖房がないんです」と安部校長先生に申し訳なさそうに言われて、ひょろりと華奢な体がいっそう縮まる思いがした。それでもヤセ我慢でダウンジャケットは脱いで向かった。相当、覚悟して子どもたちの前に登場したが、いざスナッグゴルフの講習会が始まると、寒さなんか忘れた。目をキラキラさせて、ランチャーを振り回して「当たった」「飛んだ」と飛び跳ねる子どもたち。口々に「楽しい!」とまとわりつかれて「俺もすんごく楽しいよ!!」
本当に、子どもたちとの時間がこんなに楽しいとは思わなかった。こんなに力をもらえるものだとも。10年ぶりくらいの給食を挟んで、午後から「夢を持とう」の講演会も、「俺、今までゴルフばっかりで。勉強もしてないから。頭悪りぃから。うまく喋れない」と緊張しきりで、最初はモタモタと口ごもってばかりいたのにそんな自分にも真剣な表情を向けて、食い入るように子どもたちに見つめられたら、いつの間にか乗せられた。

コーチで父の雅己さんの手ほどきで、ゴルフを始めたのはちょうど目の前の子どもたちと同じ年。「汚い字」と恐縮しながらホワイトボードに「小学4年生」と書き込んだ。プロゴルファーの夢を持ったのも、ちょうどこの頃。中3で九州大会優勝。全国大会を制したのは高校2年のときだ。「あのころは天狗だった。自分が一番上手いと思っていた」後からいやというほど悟ったのは、「上には上がいるということ。優勝したのもたまたまだった」。その後、日大に進んだがやっぱり強敵揃い。出番もなかなか来そうになく「ならいっそプロで」と、早々にデビューを決めた。
しかしその直後に左手首を痛めてクラブを握ることすらままならなず、鳴かず飛ばずが4年も続いた。「昔からよく言われていた。“オマエは尻に火がつかないとダメなんだ”と」。当たっていた。「今年ダメなら諦めよう」と覚悟を決めたのが23歳の時。その矢先に交際中の和歌子さんの妊娠が発覚。若くして出来ちゃった婚を決意したなら、つべこべ言わずに「やらなきゃいけない」
ツアーの出場優先順位を決める一昨年のファイナルQTで3位。昨年は堂々の1位。ツアーの開幕を約1ヶ月後に控えてこの小学校訪問に家族を連れてきたのは、まだ新婚旅行も叶えていない妻に、せめてせっかくのこのオフに温泉旅行をプレゼントしたいと思ったから。

今年はジャパンゴルフツアー選手会の理事に就任。選手会長を助ける策として、みな持ち回りで業務を担当する中で、スナッグゴルフ部門を受け持つことになり、今回はこれが“アトムの初仕事”。「お仕事なんだから。私たちがついて行ったらマズくない?」恐縮しきりの妻と1歳になる亜子ちゃんともども思い切って連れてきて、本当に良かった。
子どもたちに堂々と紹介をした。「あそこにいるのが僕の家族です」今、自分がこうしているのは彼女たちのおかげです。それと父親。プロの一人語りのあとに、早速子どもたちから質問が飛んだ。「もしも小4の時にお父さんにゴルフに誘われていなかったら今頃どうしていますか?」今さらゴルフのない人生など考えられない。でも子どもたちの疑問には真摯に答えた。「サラリーマンかな?」
「小学校のときに思った夢を、どうしたら叶えられるのですか?」
大きな声では言えないが、当時のアトムは勉強もそっちのけ。「授業中も頭の中はゴルフばっかり」。そんなアトムを影ながら応援してくれた当時の担任の先生には「感謝している」。いろんな人に支えられ、ここまでやってこられた。「こうなりたいという夢を、自分で見つけてこれまで一生懸命に没頭してこられた」。アトムは今でも信じている。「頑張っていれば必ず夢は叶うから」またたとえ、夢半ばで破れても「頑張ったという経験があれば必ず良い大人になれるよ。将来の役にも立つと思う」
質問の手は、どんどんと増えるばかりだった。4年生の内海真斗くんは、午前中のスナッグゴルフ講習会のプロとのガチンコ対決で、ハンディ2を使わなくとも2打でみごとに的にくっつけ、プロと堂々のタイスコアに持ち込んだ。対戦後に「プロはまあまあ強かった」と言ってのけた強者が、真っ直ぐな目をして聞いた。「今年、勝つ自信はありますか?」
思わず妻の腰も浮く。夫はこの質問になんと答えるのか。妻も期待通りの言葉は聞けるのか。「うう〜ん・・・」とうなった挙げ句に「正直(自信)ないです」。奥さんばかりか、子どもたちすらズッコケかけた。「ないのかよ?!」とのブーイングが上がる間も置かずに「けど頑張ります」と、力強く答えた。たちまち拍手が沸き起こった。和歌子さんから嬉しそうな笑顔もこぼれた。「今日の子どもたちはみな、アトム選手のファンになったのですから。頑張ってくださいよ」と安部校長先生にも励まされて大きく頷く。

昨年から潰瘍性大腸炎を煩い、ときどき血便に苦しみながらも改めて、アトムは力の限りに戦うことを誓った。「今日来て良かった」としみじみと言った一児の父。妻も同感。「ほんとうに。家で帰りを待っているよりもずっと良かった」と惚れ直した。まだシード権もない25歳には、こんなに大勢にサインをしたのも初めての経験。たどたどしい楷書で「亜斗夢」の文字もそのうちサマになっていくのだろう。
「いいですよね、あれだけたくさんの子たちに励まされるのって。頑張り甲斐があるっていうか」と嬉しそうに妻の腕に抱かれた愛娘の頬を突っつく。「5年後には、亜子もあんなふうになるのかな?」この日出会った子どもたちに我が子の成長を重ねれば、託す希望も愛もいや増す。今季に賭ける思いもいっそう高まる。


  • 安部校長先生と、重永からスナッグゴルフ贈呈式でコーチングセットを受け取ってくれた4年2組の中村あみさん(中央)
  • 「すっごく楽しい!」と、子どもたち以上にアトムがスナッグゴルフに夢中に
  • プロとのガチンコ対決でプロとタイスコアに持ち込んだ内海くん。「今年、勝つ自信はありますか?」と講演会でも核心をついた質問でプロをたじろがせた
  • 妻の和歌子さんと1歳の長女亜子ちゃんが背後で見守る中で、これまでに経験したこともないほどサインペンを走らせたアトム。就任後の初仕事は大盛況のうちに幕を閉じた

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