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VanaH杯KBCオーガスタゴルフトーナメント 2013
S・J・パクがツアー初優勝【インタビュー動画】
昨年、この「VanaH杯KBCオーガスタ」でツアー通算2勝目を達成した金亨成(キムヒョンソン)は、練習仲間で尊敬する先輩。今季は再三の優勝争いも、なかなか勝てずにいるパクに、金はこう言ってくれた。
「お前はそのうち必ず勝てるから。今は我慢の時だよ」。ただの慰めではなかった。先輩の言葉は確信に満ちていて、どれほど励まされたことか。
54ホールの短縮競技となったこの日の最終日は、最終組の3人で首位から並んでスタートしたが、「ただもう夢中だった」という。他の選手のプレーや他の選手のスコアを確認する余裕もない。「自分のプレーに集中していた」。
後半の11番で、8メートルのバーディトライを沈めて、3打差の独走態勢を築いた。ここ芥屋は、上がりのホールほど、大どんでん返しの可能性をはらんでおり、もちろんそれで力を緩める気はさらさらなかった。15番から立て続けにきわどいパーを拾って粘った。
ついに1打差で迎えた18番も、最後は2.5メートルのバーディチャンスを沈めて2打差で突き放すと「去年、先輩が勝った大会で、自分も勝つ事が出来て嬉しい」と、金をはじめ信頼のおける良き仲間たちからの天然水素水「VanaH(バナエイチ)」の祝福の水シャワーも、昨年の先輩の優勝シーンの再現のようで、それもまた嬉しかった。
びしょ濡れのまま、スコアカードの提出所に入った。スコアチェックを済ませて出てきたら、外にはまだ、金が立っていた。どうしたのかと駆け寄ると、「ちゃんとカードにサインはしたか?!」。苦笑いでうなずいた。もし二の舞を演じるようなことがあれば、せっかくの勝利も台無しだ。金は、何よりそのことを心配して駆けつけてくれたのだった。
あれは、2010年のコカ・コーラ東海クラシック。2打差の3位タイも幻と化したのは、決勝ラウンドの3日目。スコアカードのサイン漏れで、失格をした。アテスト中に、スコアチェックで18ホールついて歩いてくださったボランティアの方に、お礼にボールをプレゼントしなくちゃと気が急いた。サインをする前にボランティアの方を追いかけて、一度、うっかりと部屋を出てしまった。
しまった!と、慌てて舞い戻っても、あとの祭りだった。そのまま勝負を下りて、コースを去るしかなかった。苦い記憶だ。
「・・・そんなこと、ありましたっけ?」とわざとうそぶいたが、今でも忘れはしない。優しい心遣いが仇となった。そんな失敗談が象徴するように、いつも気配りの27歳。
優勝インタビューで、「外国人の僕にも暖かい声をかけてくれた」と、ギャラリーへの感謝も忘れず、小5のときに、ニュージーランドに渡った帰国子女はりゅうちょうな英語のスピーチで、ひとしきり熱い思いを述べたあとで、うっかりウェアメーカーへの感謝の言葉を言い忘れたのを思い出し、司会進行役を制して早口で、慌ててつけ加える律儀さだ。
2009年に、初来日した際の登録名は「朴星俊(パクソンジュン)」。昨年から今の「S・J・パク」に変えたのは、母国で吉報を待つ家族や友人が、ホームページでスコアをチェックする際も「漢字だと、僕だと分かりにくいだろうと思ったから」。そして、もちろん「日本のファンのみなさんにも覚えていただきやすいから」。
最終日が中止となって、やはり54ホールの短縮競技となった先週の関西オープン。結局、2位のまま終わったが、恨みがましいことはひとつも言わずにただただ、親友のブラッド・ケネディの優勝を心から喜んでいたのもパクだった。
2011年の初シード入りも、昨年は「結果を求めすぎた」と昨年はたった1年で陥落。その間に、どんどんとライバルたちに先を越されたが、うらやんだりもしなかった。
歴代の賞金王の金庚泰 (キムキョンテ)や裵相文 (ベサンムン)は、ジュニア時代から共に戦ってきた同い年の友人でもある。
「確かに、彼らの活躍は凄いと思う。でも、それで嫉妬をしたりすれば、自分も嫌な気持ちになるし、友達を心から祝福する気持ちがあれば、そのうち必ず自分にもいいことが返ってくると信じているので」。
そうして、ようやく迎えた歓喜の瞬間。「今はなんと言っていいのか分からないくらい、本当に嬉しいです!!」。
この夏の最後に、自分を信じて待ち続けたご褒美が、やっともらえた。
※2013年のVanaH杯KBCオーガスタは54ホールに短縮され、規定により賞金ランキングへの加算は本来の賞金額の75%となりますが、主催者のご厚意により選手たちには全額が支払われます。