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昨年のQT1位!! ゴルフ界のアストロボーイは「今年、相当に火が付いている」
幼い頃から食がきわめて細く、特に昨年は難病指定の潰瘍性大腸炎を発症するなど、虚弱な体質は少しでもサボると、あっという間に筋量が落ちてしまう。また、ゴルファーのあまり無茶な筋トレを疑問視するムキもあるが、今でも頑固に日課にしているのは、「“鉄の塊”を使って(負荷をかけて)鍛えたほうが、“やった感”が満載だから」。格闘家や筋肉ムキムキの大人たちに混じって見よう見まねで続けてきたメニューを、この日も黙々とこなした。ひょろりとした体でも、両脇に20キロものバーベルを慣れた手つきで軽々と持ち上げてスクワット。特に1回ごとの回数は決めずに、「下半身を中心に、限界まで」。薄暗いジムの中で、荒い息づかいだけが静かに響く。
2008年のプロ転向から5年目の昨季は、自身初の本格参戦にこぎつけて、開幕戦の東建ホームメイトカップでは、初日にいきなり首位タイに。10月のTOSHIN GOLF TOURNAMENT IN Centralで2日目に4位タイ。
チャレンジトーナメントとの掛け持ちで、二足のわらじを履く選手も多い中で、重永はあえてツアー1本に絞った。今年も新年早々に血便が出るなど、スタミナ不足を本人も自覚しており、体力温存のために取った苦肉の策も、シーズン中は「毎日ぐったりしてしまって、もう何もしたくなくなるほど」。かといって食べ過ぎたり、補うためのサプリメントですら消化しきれず下痢を繰り返すなど、生来の体質からそうなることは分かっていても、「まだまだ、鍛え方が足りない」と、反省の念が募った2013年。
結局、賞金ランキングは96位にとどまったが「それはそれで、良い経験」と、それ以上に実りも多かった昨シーズン。「本当に良い経験が出来て。それが、ファイナルQTでも生かせたと思う。6日間のマネジメントがしっかりと出来たのもそのおかげ。今年こそ、ツアーで今までの経験を生かす」と、再び初シード入りを賭けて挑む今シーズンへの思いは相当なものだ。
福岡の沖学園高校時代は全国大会で優勝するなど、特に地元九州では一躍名の知れた存在も、「プロになればそんなものは、何の役にも立たなかった」。せっかく進んだ日大も、1年足らずで中退して転向を果たしたものの、直後に左手首を痛めたことも重なって、ゴルフどころか食べていくにも精一杯。「厳しい世界で鼻をへし折られた」。ジュニア時代は将来を嘱望されたスター選手が、「これでダメならもう本当に諦めようと思った」。プライドをかなぐり捨てて、研修生として一からやり直そうと思った。どん底の中で決意をした一昨年の“できちゃった婚”が、捨て身の“アトム”をいっそう奮い立たせた。
「何があっても家族を守る」という覚悟が“アトム”を再びスタート地点に立たせた。
QTランク1位で迎える今季、再び4月の開幕戦にむけて“アトム”の挑戦は続く。誰もいないジムで、孤独なトレーニングをこなした重永が次に向かったのは、さらに車で10分ほど行ったゴルフ練習場「サンバレーゴルフプラザ」。父親の雅己さんが、息子を待ち構えていた。自らもトップアマとして活躍し、同練習場ではジュニアスクールを開く“コーチ”が、もっとも手塩にかけた生徒でもある。昨季は、序盤にキャディを務めて支えてくれた恩人は、「これからも息子を宜しくお願いします」と、何度も何度も頭を深々と下げておられた。
その練習場の壁には手書きのポスター。
「2014年2月22日 ホテルニューオータニ熊本にて重永亜斗夢プロの激励会を開催!!」
本格参戦2年目の今季は、QTランク1位の実績も手伝って、注目度も周囲の期待もいっそう増すだろう。「そのことで、気負いすぎてもいけないけれど、覚悟はしている。今年は僕も、相当に火がついています」。今年新たな決意を胸に、中学時代からの馴染みの場所で“アトム”は黙々と球を打つ。