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キヤノンオープン 2012

池田勇太が待ちわびた、今季初V&ツアー通算10勝目

「長かった、やっと勝てた。ほっとした」と大観衆の前で喜びが弾けた
最終日の戸塚に駆けつけたギャラリーは1万3685人。四重、五重の人垣が、18番を完全に埋め尽くした。おびただしいほどの人の波。その真ん中で、何度も大きく手を振った。いま、この瞬間の大歓声と拍手は、勝者のためだけにある。
大観衆の祝福を全身に浴びて、「今年初めてでしょ、1年ぶりでしょ。いやあ、久しぶりに気ン持ち良かった!!」。

1年と3ヶ月ぶりのツアー通算10勝目は、自身2度目の完全優勝。実はボギーなしの66をマークして、首位獲りに成功した初日に早くも確信していた。「今週は相性の良いコースだし、行けんじゃねえか?」。2009年に続く大会2勝目。「ただ俺としては、その中でも毎日2、3足らないものがあったんだ。でも上がってみると、いつもみんなより成績が良かった」と、ただの一度も首位を譲らず、なおさら「流れは俺に来ている」。

最終日は好敵手にも恵まれた。
43歳の手嶋多一は「寄せも、パターもぴりっと切れてて。すんごくしぶとい」と、一度は首位に並ばれた。手強いベテランを封じたのは13番。540ヤードのパー5は216ヤードの第2打だ。左からの風に、4番アイアンのフェードボールを巧みに乗せた。みごと1.5メートルにつけた。手嶋は3打目にあわやチップインのバーディチャンスにつけた。「手嶋さんが絶対に取ってくるのは分かっていたから。俺もしっかり入れることが出来ればまだ運がある」。イーグルで突き放した。

一番のライバルも退けた。3年ぶりに、最終日最終組で回った石川遼。「俺が思うに遼の良さは小技。久しぶりに一緒に回って、俺もあんなアプローチをしてみたい。改めてそう思う部分がいくつもあった」と一目も、二目も置く21歳よりひと足お先に、史上最年少のツアー通算10勝目を達成した(※ツアー制度施行後)。

「いや、でも俺はちょっとの間だけだから。すぐに遼に塗り替えられるから」と、苦笑いで言い張ったが偉大な記録を真っ先に抜いたのは、この自分であることには変わりない。
ジャンボ尾崎が10勝目に到達したのは27歳と8ヶ月5日。石川が次に10勝目を上げたとしても、更新記録はあくまでも、今回池田が樹立した26歳と9ヶ月16日。「自分がジャンボさんの記録を塗り替られたことには嬉しく思う」と、そこは素直に頷いた。

憧れの人とのゴルフ談義も、最後はいつも「遼の話になる」という。「ジャンボさんは俺のことに絡めて、“それで最近、遼のゴルフはどうなのか”と。俺に聞かれても困っちゃう」。
池田もまた、この1年は深い悩みの中にいた。「2年前には年に4回とか平気でやってきたのに」。
プロ3年目から、2年連続で破竹の4勝をあげた男が、そうやすやすとは勝てなくなった。メジャーとの掛け持ち参戦に、日本と海外を行ったり来たりで調子を崩したのもある。クラブの調整に、手間取ったのも一因にある。ショットのあまりの不振に昨年末には落ち込んで、「ティグラウンドに立つのも気がすすまない」と、親しい人に打ち明けたこともある。

「あのときの気持ちは思い返したくもないけれど。何か思いがあるから悩むわけで。悩みもないと、ただのバカになっちまう」。もがいた1年は無駄じゃなかった。今季は9月に1985年以降の記録としては、史上3人目の3週連続2位にも悔しくて、「はらわたが煮えくりかえった」。

それでも池田は自分を信じた。8月は2週間のオフに“熊本合宿”でじっくりと自分のゴルフと向き合った。連戦だとできないことも、「大胆に取り組めた」。今までは、持ち球のフェードで「飛ばそうとか、強い球を打とうとか」。小手先でやってうまくいかずに「もやもやしてた」。思案の末に「180度、考えを変えた」と、ドローボールを取り入れたらたちまち攻略の幅が広がった。

「ドローにフェード。高い球に低い球。引き出しが増えたことで、楽にプレーが出来るように」。ドライバーの飛距離も15ヤードほど伸びたと、この日は石川より前に行くこともたびたびあって、「少しずつ、遼に追いついてきてるのかな」。この週は2番と16番で計測されたドライビングディスタンスでも石川よりひとつ上のランク5位(平均295.63ヤード)につけて、その点でも嬉しそうに微笑んだ。

「長かった。やっと勝てた。ほっとした」と池田は言った。勝つということに飢えていた。「今年はもう優勝はないかもしれない」と、珍しく弱気の虫も。「もっと早くに、チャンスはあったと思うけれども」。1年で、たまりにたまった鬱憤も、大会最多アンダー記録を3つも上回る快勝にすっかり晴れた。「今日は強さを見せられたと思う。これで完全復活、と言っていいのかな?」。

いいや、まだまだ。優勝賞金3000万円を加えて賞金ランキングは2位浮上。それこそ3年前には石川らと2年続けて賞金レースの主役だったが「そういえばまだ、俺は賞金王にはなってない」。安堵するのはまだ早い。
「残り試合で頑張って、今年こそ最後に手の届く位置にいたい。今までなかなか勝てなかったけど、11勝目はさっさとします。今年はあと2、3勝くらいはして、“ここにあり”というのを見せたい」。
それでこそ、若大将の完全復活といえるはず。

  • 大勢のファンにもみくちゃにされて、「危ない、危ないよ!」と嬉しい悲鳴も
  • 副賞のキヤノン製品一式も、2セット目!! さて、いつも撮られる側は、次に何を撮る・・・!?
  • なぜか会場に青木功の姿が!! 「な、なんでいるの?!」と仰天する池田の頬を挟んで「サプライズだよ!」と、青木から手荒い祝福
  • 「ボランティアのみなさんのご協力があって僕らがある」という池田。記念撮影で、帽子が深すぎると指摘されて「みんな〜! つばを上げて顔を見せて」とチャンピオン

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