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レジェンド登場(宮崎合宿2日目、27日)

第1回目に登場した“レジェンド”の舌は、最初から超滑らかだった。この宮崎合宿を主催するJGTO理事で、オリンピックゴルフ競技対策本部強化委員会委員でもある、ツアー通算16勝の鈴木規夫も思わず、目を剥く。「本当なら簡単に、人には教えたくないこと。自分の胸に、大事にしまっておきたいことのはずなのに」。プロ40年で培ってきた、自分だけの智恵や信念、手段。それらを若い選手に惜しみなく差し出す心の広さだ、髙橋勝成。

今年3回目を迎えたJGTO主催の強化合宿「JGTOゴルフ強化セミナーin宮崎フェニックス・シーガイア・リゾート」では、今年からまた新たに3人の特別講師を招くことになった。ゴルフ界に、一時代を築いてきた面々。まず最初の“レジェンド”は、今年65歳を迎えようというのにともすれば、10代の選手よりも若い肉体を持つ。そして、まだまだ枯れない夢と希望を持つ男。

1回5日間につき、これから計3回に分けて行われるこの強化合宿は初日を迎えた前日26日。人間の体の動きには、4つのタイプがあるとされる「フォースタンス理論」の考案者でもある廣戸聡一先生の講義を受けて目からウロコを落とした髙橋は、その夜、廣戸先生に言ったそうだ。

「今の若い子たちは、恵まれていますよね。俺たちなんて、若い頃からほっぽり出されて。自分たちで勝手にやるしかなかったんですから」。可能性も、与えられたチャンスも、今の若い選手たちはあきらかに今の自分よりもうんと恵まれているはずなのに、分不相応のことをしたばっかりに、ケガに泣いたり、深刻な不振でつぶれそうになったり。

何を甘いこと言ってるんだと、厳しい時代を生き抜いてきた髙橋なんかはつい言いたくなる一方で、「そんな彼らに、僕らが何かヒントをあげられることはないのか?」。スナッグゴルフを通じて、今もジュニア育成に尽力するなど、無類の面倒見の良さが、ここでもむくむくと頭をもたげていた。

今回のレッスンのテーマは、「勝負に勝つための練習と、その方策」。ただ、上手くなるためのレッスンなら、なにも講師は髙橋でなくともよい。ただ、ひたすらに優勝だけを目指して戦いの場に出て行こうとする若いプロ集団の前で、何を伝えれば良いのか。打撃練習場でも、アプローチとパッティンググリーンでも、髙橋はただその点に心を砕いていた。

そして若手の力になるのなら、自身の恥をさらすことも厭わない。1975年にプロ転向するなり翌年にアジアサーキットの韓国オープンで初優勝を飾り、「勝つなんて簡単だ、と。思い上がった」。その後、勝てなくなり、8年もの不遇の時代を過ごし、1日8時間もの練習量や、技術、用具への研究熱が培われたのもその時。83年に初シード入りを果たしてから、15年連続のシード権も、スランプを経験したことで、目が覚めたから。

「体力も、環境も、何もかも整った状態でする練習なんて。実戦では何の意味もないということ」。優勝争いの場面。心臓はバクバクと鳴り、手は震え、体もうまく動かない。それと同じ状況を想定してする練習を始めるようになった。ツアー通算10勝の“貢献メンバー”の礎が築かれたのもこのとき。2000年のシニア入りから、4年連続の“賞金王”も、そのたまものだ。

「レッスン書を信じるな。まずは、自分の体が持つ才能を信じてやれ。そうないと自分の潜在能力も引き出せない」。合宿の参加者たちにかけて回った言葉が計らずも、廣戸先生の理論とリンクした。この日の早朝のトレーニングでも、廣戸先生のいわんとすることを瞬時に理解し、そのとおりに体を動かしてみせた髙橋。「自然に任せて自分が動かしやすいようにやってきたことが、僕の場合はたまたま、正解だったってことなんですよね。それでここまで大きなケガをしないでやって来れたんですよね・・・。俺は幸せだなあ!!」。

誰かに正解を教えてもらわなくても、正しい方法を続けてこられたという、そのことこそもはや、一流の証しとも言えるが、髙橋は謙虚に「僕はたまたま、偶然だった」と、強調した。そして、それがプロゴルファーとして、最高に幸せなことだったのだ、と。そしてそうやって、自ら血の滲む思いで培ってきたことを、いま惜しげもなく髙橋は、若手に伝えようとしていた。

そして、まだまだ65歳は成長の途中だ。
「今回、廣戸先生の理論を教えていただいて、私もまだまだやれそうな気がしてきましたよ。希望がわいて、これからもまだまだ上手くなりたいと思いましたよ。私もまだまだ頑張る!」。65歳を目前に、恐るべし向上心。このあと登場する特別講師は2回目、3回目とまだまだビッグネームが続く。青木功に、中嶋常幸の登場に、次はまたどんな、珠玉の講義となりますか。

JGTO強化合宿の主な講師の方々
島村俊治氏(スポーツジャーナリスト、アナウンサー)
廣戸聡一氏(コンディショニング・スーパーバイザー)
渡會公治氏(JGTO医事委員)
長谷川洋氏(JGTO医事委員)
斉藤明義氏(JGTO医事委員)
成瀬克弘氏(JGTOオフィシャルアスレチックトレーナー)
二串幸之助氏(ストレングス&コンディショニングアドバイザー)
楠山卓氏(レッシュ公式マスター級トレーナー)
犬井潔氏(レッシュ公式マスター級トレーナー)
山下浩和氏(レッシュ公式マスター級トレーナー)
足立智明氏(レッシュ公式マスター級トレーナー)
西野貴治氏(レッシュ公式マスター級トレーナー)
青木功(特別講師)
中嶋常幸(特別講師)
髙橋勝成(特別講師)
池田勇太(ジャパンゴルフツアー選手会会長)
宮里優作(ジャパンゴルフツアー選手会理事)
桑原克典(ジャパンゴルフツアー選手会理事)

  • 廣戸先生の講義に髙橋もさっそく目からウロコ!
  • 65歳にしてみよ、この柔らかさ!
  • 念、力・・・・・・!ではありません。トレーニングのいっかん。講義の合間に、若手に混じって自らも体を動かす

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