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土壇場の男! 平本穏が目指すもの

初の合宿参加は走って、
平本穏(ひらもとやすき)は後悔していた。「もう1年、早く来ていたら・・・」。今年、3回目を迎えたJGTO主催の宮崎合宿「JGTOゴルフ強化セミナーin宮崎フェニックス・シーガイア・リゾート」には昨年、参加しておいたら・・・。
もっと近道が出来ていたのではないか。今年は第1シードにも、潜り込めていたのではないか?
ついつい、考えてしまう。実現出来ていたかもしれないもうひとつの2014年。
「でも、去年は去年で、良い経験が出来てましたもんね」と、平本は無理にタラレバを打ち消した。そして、後悔するかわりに与えられた課題をこなすことにつとめた。昨年、参加し損ねた分を取り戻すかのように、講師の先生方に次々と質問をぶつけた。

先輩プロの兼本貴司に言われたことがあるという。「お前、感性に頼りすぎていると、そのうちぶっ壊れるぞ」。自称“感覚派”は今までスイングを、理屈で考えたことはなかった。10歳で、初めてクラブを握ってから身につけたときそのまま。でも兼本には「それだと歳を取ったら、痛い目に遭うぞ」と言われて、思うところがあった平本には、特に今回の合宿参加は有意義な5日間となりそうだ。

合宿2日目に特別講師として訪れた髙橋勝成。人間の体には4つのタイプがあるとされる「フォースタンス理論」で廣戸聡一先生に分析してもらったところ、平本の同じタイプの“レジェンド”であることが分かり、それだけになおさら髙橋からのアドバイスはストンと平本の胸に落ちた。

打撃練習場での一言。「手じゃなくて、腹で打てよ」。また髙橋は、「スイングを頭で考えるな」と繰り返し言った。それは、つまり感性を大事にしろ、とも言い換えられるが、以前の平本のように「感性に頼り切る」のとは、また違う。自然に、体が動くとおりに、クラブを上げて、下ろしてくれば、必ず正しい位置でインパクトを迎えられる。シンプルに打て、ということも、髙橋はよく言ったが、同時に競技生活が長くなればなるほど実はそれが一番、難しいことなのだということも、分かってくる。

「プロゴルファーのみなさんというのは尋常じゃない回数で、日々ボールを打つわけですから。最初は自分の体の理にかなったスイングをしているようでも、次第に微妙なズレが生じてくるわけです。しかしこれといった原因も分からないままやみくもに、良かった頃の手応えを追い求めて、いつの間にか深刻なスランプに陥ってしまう選手も多い。頭で考えすぎて、なにも出来なくなってしまうのもダメですが、感性に頼りすぎてしまうのも、やっぱりダメで。どんなスポーツでもそのバランスが絶妙な選手を一流と呼び、さらにはいずれレジェンドと称されるようになるのでしょう」(廣戸先生)。

平本は、髙橋から教えられたことと、廣戸先生に教わったことを自分なりにかみ砕いた上で、1本のチューブを体に巻き付けて球を打ったり、左右片手ずつ打ったりする練習を始めた。
「(片山)晋呉さんもよく練習器具を使って練習しているでしょう? 僕もこれからは感覚だけでやらずに、いけないところは矯正して、自分に一番あったスイングを、体に覚え込ませようと思うんです」と、平本は喜々として言った。

この宮崎合宿も、今年が初参加となったのは、昨年まではオフのレッスン業が忙しく、予定がつかなかったことが一番の理由だが、そこにはちょっぴり言い訳もあったと平本はいう。
「なんかしんどそうだし、トレーニングをみんなで一緒にやるなんてという、甘えもあった」と打ち明けた。また、今回の3回目だって、本当なら来ていなかったかもしれないという。

「もしも順調に“ファイナル”に通っていたら、俺には必要ないって。今年も通れたじゃんって、天狗になっていたかも」。

ツアーの出場優先順位を決めるクォリファイングトーナメント(QT)は昨年、「自分にプレッシャーをかけすぎた」と、“ファイナル”の直前のサードで失敗。目の前が真っ暗になった。「俺は、一度は“死んだ”」。もうゴルフはしたくないと、ふて腐れて夜の海辺でひとり釣り糸を垂れていたとき、吉報は舞い込んだ。

出場のチャンスももうないと、諦めていたカシオワールドオープンはシード権争いの“最終戦”で、欠員が出るかもしれないと、連絡が入った。最後の望みをかけてきゅうきょ現地入り。開幕の2日前に出場枠に滑り込み、あれよあれよのV争い。

結局、3位タイに終わり初優勝も、賞金ランク68位は上位60人の第一シードも逃したが、その前週までの絶望を思えば、「もう一度、神様が与えてくださったチャンス」。感謝こそすれ、それ以上の贅沢を言う気にはなれない。

シーズンが終わった翌日の、部門別ランキングの1位者を表彰する式典で、谷口徹に会ったときに言われた。「おう、準シードの平本くん!」。大先輩にいじられても、悔しくなかった。確かに、第一シードに滑り込むにもあと一歩ではあったが、本当なら翌年の出場権すらないままの年越しになっていたところを土壇場で救われたのだ。

後悔して過ごすより、このチャンスをいかに生かすかを考えたい。そして初心に返って、開幕に備えて謙虚に取り組む。
「今年こそ谷口さんに、“本シードの平本くん”と言ってもらえるように。欲張らずに、ひとつひとつ段階を踏みながら、地道に頑張る」。改めて、心に誓った宮崎合宿。サブタイトルは“〜オリンピックを目指して〜”。「・・・2019年の賞金王は絶対に“東京”の代表になれますよね?」。4年後、平本は33歳。プロゴルファーとして、もっとも脂が乗っている時でもある。
  • 跳ねて、初日から強烈な筋肉痛に
  • 竹谷(右)は、平本の地元の広島県が活動の拠点でもある縁で、良き先輩であり、練習仲間でもある。昨季の竹谷の初Vは平本にもいろんな意味で衝撃を与えてくれた

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