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今年の宮崎合宿はいよいよ最終章に、トミーが登場!

JGTO主催の宮崎合宿こと「JGTOゴルフ強化セミナーin宮崎フェニックス・シーガイア・リゾート〜オリンピックを目指して〜」は16日から今回の“最終回”にあたる3回目が始まりその2日目の17日に特別講師として現れたのはトミー。合宿地のフェニックスCCは毎年11月に開催されるダンロップフェニックスの開催地でもあり1985年に日本人として初めて同大会を制した男。

中嶋常幸は早朝から廣戸聡一先生の指導でトレーニングに励む若者たちをしばらく睨むように観ていた。人間の体の動かし方には4タイプがあるとされる廣戸先生の“フォースタンス理論”は「AとかBとかあるんだろう? でもそこは専門分野だから。俺にはわからんし何か言うつもりもない」。でも確かに言えるのは「トレーニングを拝見させてもらってこれは、俺が今まで見てきた中でも一番素晴らしい内容だということ。ゴルフにも良い楽しい要素が詰まってる」。

ゴルファーには絶対に必要と中嶋が考えるもの。それは「左腕の強さ。左腕から肩、肩胛骨までを使っていかに大きなアークを作っていけるか。それと体の柔らかさ。その両方がないと球を強く飛ばせない」と中嶋は言ったが、廣戸先生が考案したメニューには継続していければ、それが必ず体現できると中嶋が確信できるものが数多くあった。

「世界に通用する選手の発掘と育成」を目的に、セガサミーグループの支援を受けて、2013年からスタートしたこの強化合宿も回を重ねるたびに、反省と改良を重ねてよりゴルフに特化した内容にしていこうと試行錯誤を重ねてきた。
中嶋も「野球選手が陸上選手のするトレーニングをしたって全然ダメなのと同じで、ゴルフにはゴルフのやり方がある」と言った。ツアー通算48勝という輝かしいプロ人生の影で、度重なるスランプにも見舞われ血を吐くような努力を重ね、試行錯誤を繰り返し「何人ものトレーナーにも教わってきたが、それをゴルフに置き換えていく作業は非常に手間がかかったという思いがある」。
今の子たちは先人たちが苦労と共に積み重ねてきた工夫を、こうしていともたやすくに差し出されて、非常に恵まれた環境にも関わらず、「先生の言われていることが全然分かってない!」。
たとえば練習場の片隅で、打撃練習の合間に行うトレーニングは参加24人が2列で順番に走ったり跳んだり。
「確かに2人並んで行うことで個々のポテンシャルを最大限に引き出そうという狙いはあるだろう。でもこれは競争じゃないんだ。先生は何遍もそう仰っているのに我こそが先に行くんだと、皆それだけに必死になってる。せっかく良い内容も、それじゃ何遍やっても意味ないよ」。
相手に勝とうとムキになればどうしても上半身に力が入るものだが「ゴルフは肩で出力したらダメなんだ。それだとスイングしたときすぐに固まってしまう。クセになる。重心を安定させてケツ付近から出力しないと。トレーニングの段階からそこを意識してやらないと。そこを皆ちっとも理解してない」。
特別講義はいきなり厳しいダメ出しで始まった。「頑張りすぎるトレーニングはフォームを崩すよ。いくらやっても効果はない」とバッサリだ。

今年40年目を迎えた栄光のプロ人生はゴルフの手ほどきを受けた父・巌さんから授かった強靱な肉体を糧に、血の滲む思いで幾たびものスランプを乗り越えてきた。初のマスターズで打ちのめされ、道具の進化に翻弄されて幾度もどん底を味わいながらも、幾度も不死鳥のように蘇り、これだけの地位を築いて来られたのは本人も言ったように「俺には自分の体との対話能力があったから」。
フォースタンス理論のことは詳しくは知らない。しかしこの強化合宿で、やはり特別講師をつとめた髙橋勝成や青木功と同様に、中嶋もまた長い長い時間をかけて、努力と工夫を重ねて完成させた独自のメソッドは、廣戸先生が構築されてきた理論とぴたりと重なる。それが証拠に参加者たちが取り組むメニューには、すでに中嶋が20年来続けてきたのとそっくり同じトレーニングがいくつもあった。

「どんな恩人が“食べ物”をお前たちの口まで持ってきて、親切に食べさせてくれてもそれを実際に栄養にするのはお前たち次第。あとは自分で考えなくちゃ。ゴルフの特性を知って、どう展開していくべきか。まずは自分で考えなくちゃ。松井選手も言ってたよ」。メジャーリーグで暴れまくったゴジラ選手の手記にあったそうだ。
“自分で考えられない選手は、どこにいっても通用しない”。中嶋も同感だ。
「考えて、考え抜いて自分なりの方法を編み出すんだ。答えが出たら先輩たちにも聞いてごらん。聞けばきっと答えてくれる。方向性を出してもらえる。そして、確信が持てたらとことんやり続ける。そうやって自分で膨らませていけないヤツは、どこに行ってもダメだと思う」。

講義の合間のデモンストレーションで、たびたび中嶋の口から飛び出した名前はジャンボに青木に・・・。一時代を築き上げてきた偉人たちはライバル同士でもあり、とうとう還暦を迎えた今でもつい張り合う気持ちが出てしまう。「こんなショットをしていたら、青木功にナメめられちゃう!」。そんな底なしの対抗心でやって来た。

講義の最後に参加者からいくつか質問を受け付けたが、どれも中嶋にはありきたりに聞こえて、つい口調も厳しくなるが、「試合の翌日こそ体を鍛えろ。普段の食事は1500kcalに抑えろ。試合の日ならば3000。では、ラーメンのcalはいくつか。かけそばは? すぐに数字が出て来ないとダメだよ。夢は要らない、目標があれば。パスポート一つで世界へ飛び出せ・・・!」。
珠玉の言葉が参加者たちに降り注ぐ。
「お前たち、俺がいくら稼いできたと思ってる?!」。ツアーの獲得賞金だけなら16億円余。「表向きは確かにそう」。そこにシニアの賞金や契約金などを足せば一体いくらになるのやら。「一番喜んでくれているのは嫁さんだけど」。最愛の家族の為に頑張ってきた40年は“プライスレス”でも「ツアーにはそれだけの大金が埋まっているのだから。お前たちも何十億と稼げる選手になってくれ。その為にも今回学んだことを消化出来るように頑張ろう」。参加者たちの目の色が変わった。

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