記事

中日クラウンズ 2015

I・J・ジャンが和合で2勝目

このたびのツアー通算3勝目に際して、ジャンが一番に言いたいことは、「ミズキ、見ててくれた?!」。先週の出会いには、本当に感謝したい気持ちで一杯だ。
ジャパンゴルフツアーの震災復興支援の一環で、ジャンが福島県の岩瀬郡天栄村にある湯本小学校を訪れたのは4月23日。新白河駅から車で約1時間。「本当にこの先に小学校があるのか」と、道中、心配になったほど。深い山間の小学校は、全校児童18人。みんなでスナッグゴルフを楽しむことになっていた。「こんなに山の中の学校だから。みんな人見知りして、僕にも馴染んでくれるかな」。子どもたちに会うまでは、正直ちょっぴり心配だったのだ。

ツアープレーヤーたちが全国各地の小学校を回り、ゴルフの楽しさ、面白さを伝えて歩く「ゴルフ伝導の旅」は2008年からスタートしたが、今まで外国人選手がこの貢献活動に参加したことはなかった。日本にきて11年目。「僕ら韓国人選手も日本に何か、恩返しをしていかなければいけない」。日本で活躍する韓国勢をまとめるリーダー格は、先陣をきるつもりで参加したのだったが、帰るころには誰よりも自分が一番、子どもたちに元気をもらったことに気づくのだ。

「本当に、みんないい子たちでした。元気で、明るくて、いつも笑顔で」。自身も10歳の我が子がいるが、「僕がうらやましくなるくらい。みんなとっても積極的で、人なつっこくて面白くて」。最初から最後まで、笑いっぱなしの1日だった。その翌週の和合でも、その余韻は冷めやらず、毎日のようにジャンは繰り返した。「みんなに僕の活躍を見てもらいたいんです」。
帰り際には駐車場まで追いかけてきて、いつまでも手を振ってくれた子どもたち。
「次の試合も頑張ってください!」。
「みんなで応援しています」。
「・・・絶対に勝ってね!」。
口々に、背中に受けたエールが忘れられなかった。

片山と並んで首位タイから出た最終日は、後半からじわじわと混戦を抜け出して、奥のバンカーから寄せきれずに、8メートルものパーパットをしのいだ14番も、16番ではグリーン奥のOBの恐怖を振り払い、89ヤードのバンカーからしぶとくパーを拾った場面でも、ずっとジャンの心の中にあったのは、子どもたちのことだった。「みんなに良いプレーを見せたかった」とその一心でプレーした。

特にあの日レッスン会で、トッププロとハイタッチをしたがって、じゃれついてきた5年生の星海輝(ほしみずき)くん。一番の仲良しは、この日最後のピン奥からの見事なバーディ締めも、見てくれただろうか。4打差の圧勝に、駆けつけた10,915人もの地元ファンの前で握ったガッツポーズ。「ミズキにも勝ったよと、伝えたい」。子どもたちとの出会いを糧に、戦い抜いて改めて子どもたちに伝えたいのは「ありがとう」の気持ち。「本当に楽しかったから。すごく新鮮な気持ちでゴルフが出来たから。みんなのおかげです。ありがとう・・・!」。

楽しい思い出を胸に、難攻不落の和合で2勝目。今大会では青木やジャンボ、片山らに続く史上6人目(1973年のツアー制度施行後)の複数年Vの快挙達成に、7月の「ダンロップ・スリクソン福島オープン」で再会を約束した子どもたちに、この喜びを伝えるのが今からとても楽しみだ。

そして2012年もそうだったが、原動力は名古屋名物「ひつまぶし」。週に3度ははしごして、「後輩たちには“先輩、もう飽きた”って」。呆れられてもお構いなしで、「僕はもう歳ですし、スタミナをつけないといけませんし」と懲りずに、名古屋一の名店も知っている。「僕はひつまぶしのプロですから!」と、妙な豪語もご愛敬。

初参戦から3試合目にして、日本ツアー初制覇を飾った来日当初(2005年)は、米ツアーへの出場が夢だったが、「今は日本がいいです。大好きな日本で常に、10位くらいに入れる選手になりたいです」。とりわけここ名古屋が大好きで、しかもここでは不思議と良いプレーが出来る気がする。昨年は後輩の金亨成(キムヒョンソン)に続いて、韓国選手が和合で“連覇”を達成した。また今週の女子ツアー「サイバーエージェントレディス」では申ジエ選手が優勝を飾り、韓国勢のアベックV。
「韓国の女子は本当に気が強い。だから日本でも、アメリカでもどこでも勝てるんです。でも、男子はちょっと・・・」と冗談めかして笑いつつ「僕も来年、またここで勝ちます」。どんな場面でも笑みを絶やさぬ真の強さ。この日の戦いぶりにも、きっと子どもたちは感動してくれたはずだ。
  • 先週のワンシーン。みんな、また会おうね・・・!

関連記事