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日本オープンゴルフ選手権競技 2015

小平智が第80代目のゴルファー日本一に

絵に描いたような、復讐劇が完成した。西日に輝く表彰式で、第80代目のチャンピオンに優勝ブレザーを着せかけたのは、昨年のこのゴルファー日本一決定戦で、1打差の勝利を許した相手。
「去年、負けた勇太さんに、リベンジが出来たことは自信になる。これからの試合につながる」。池田に袖を通してもらって、胸を張る。

2打差の単独首位で出た最終日はその池田と最終組で、まさに激しい一騎打ちとなった。「自分がリードしているときは、逃げなきゃとかも考えた」と池田に追われて、ちょっぴり弱気もちらついた。
「人のことは見ないとか言って、最初のほうは見ていた」。4番のパー5が顕著で「隣のホールの拍手とダウンスイングがカブってブレた」とチャンスホールのボギーにイライラする場面もあったが、ひと月前から始めたというメンタルトレーニングの成果を本当に実感出来たのは、13番でボギーを打ってから。

ついに池田に並ばれたことで、むしろ「気持ちが楽になった」。スイッチが入った。「ここからがスパートと、勝負をかける気持ちになれた」。次の14番パー5は、2オンに成功しながら8メートルのイーグルトライも3パットのパーに終わって、ますます勇猛果敢に「ここから全部バーディを獲ると、全集中をかけてやった」。

15番は7メートルのバーディトライも、「入れるとしか考えなかった」と、その通りに、ど真ん中から沈めてみせた。17番で池田に6メートルを入れ返されても「優勝カップを持つのは自分」と最初に描いた青写真を疑わず、ついに並んで迎えた最終18番も「プレーオフはない。バーディを入れて、勝つのは自分」と顔色ひとつ変えずに、因縁の相手を土壇場で振り切った。

脳神経外科の世界的権威である、林成之(はやしなりゆき)氏に最初に言われたのは“バーディを獲っても、当たり前と思え”ということだ。以前はひとつ獲るたびに、それをまるでご褒美のように感じて浮かれたものだが、そういうときに限ってそのあと必ずボギーを打つ。

「嬉しいと思うからボギーを打つんだ、と。日本人選手の連続バーディ率が低いのはそのせいだと。林先生はそれを漠然とではなく、データで出して示してくださるので。だから最後まで隙は見せるな、と」。
先輩プロもうらやむ飛ばし屋のショットメーカーも、「パットはへたくそと言われることが多かった」。以前はそのたびに、ヘコんだりもしたものだが「今は、ショットが上手いから、チャンスにつく回数が多くて、それでパットが下手に見えるんだと、そう言い聞かせている」。

林氏にたたき込まれた強烈なプラス思考はただ闇雲ではなく、課題の小技にはもちろん今まで以上に時間を割くし、コースでも根拠のない挑戦は絶対にしないと決めている。
この日も366ヤードのパー4で、果敢にワンオン狙い。「練習ラウンドのうちに様子を見て風がフォローなら、絶対狙うと決めていた」と、開幕前にそんなプランを立てていなかったら、V争いのさなかの一見無謀な挑戦もなかった。
これも、林氏から教わったことのひとつだといい、「普段やっていることから外れると、脳がパニックを起こすらしい。だから、練習でやっていないことは、本番でも絶対にやらないと決めている」と、そこまで言い切るほどに、入念な下調べと自信に裏打ちされた強烈な一打はピンまで20ヤードのグリーンエッジをとらえて、改めて精度の高さを証明してみせた。

女子プロゴルファーの古閑美保さんとの交際を公表してから初めての優勝は、「いや、別に勝って安堵とかはないし、古閑さんのために優勝を狙っているわけじゃない。まず自分のために頑張って、その次に家族や仲間がある」とそこはビシっと、それでも1989年生まれは大会80回目にして初の平成生まれのチャンピオン誕生という栄誉である。また2013年の日本ゴルフツアー選手権に続く、20代での国内タイトル2勝目は昨年の今大会を制した池田と並ぶ記録である。

「彼女のほうからゴルフの話をしてくることはないけれど。賞金女王として、上を極めた人。尊敬もしているし、林先生に言われたことを話してみたら、確かに自分もそうだったと、彼女にも当てはまったりすると、本当に凄いなって」。
トレーニングなどせずとも元々備わった古閑さんの勝負脳に感嘆するとともに、「自分ももっと取り入れたい」。ますますやる気にさせてくれる存在にも「優勝報告が出来るのは嬉しい」と、プロとしては今はまだ格上の恋人にも胸を張れる日本一の称号だ。

この1勝で5年シードとともに、来年の全英オープンの出場権を獲得した。初出場の2013年には「こてんぱんにやられた。次は、決勝に残って上位争い出来たらいい」と、今度はさっそくリンクスでのリベンジを誓った。米ツアーで戦う松山英樹や石川遼に、今年は岩田寛が加わり、昨年は自身もQスクールに挑んだ小平の胸も逸る。「若い選手の中には世界を目指す人はまだ少ない。もっと上手くなりたいと思う若手が増えて欲しいし、自分が先陣切ってやれれば」。

レベルアップを期して、ジャンボ尾崎や大先輩の話を聞いて回る中でも、強く印象に残っている言葉は片山晋呉に教えてもらった「出過ぎた杭は打たれない」。誰にも文句を言わせないくらいの活躍をして、世界に羽ばたいていけばいい。「今は離れているけど、次の目標は賞金王。今年はここから2、3勝はしたいと思うし、最後まで突っ走りたい」。勝負脳にもこれからますます拍車をかけていく。

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