記事

世界のアオキが登場!

この宮崎合宿を主催する日本ゴルフツアー機構(JGTO)の理事で、オリンピックゴルフ競技対策本部強化委員会委員でもある、ツアー通算16勝の鈴木規夫が参加者たちに集合の号令をかけるなり、まだ全員、集まりきらないうちに、話しはじめた。

さっそくそこに、独特の世界が広がっていく。鈴木が慌てて、大声を張り上げる。「走れ! 早く集まれ!」。構わずに、話し続ける。もう止まらない。一言たりとも聞き逃すまいと、参加者たちは慌ててその回りに駆け寄った。

今年3年目を迎えた通称・宮崎合宿は正式名称「JGTOゴルフ強化セミナーin宮崎フェニックス・シーガイア・リゾート〜オリンピックを目指して〜」は今年から3人のレジェンドを特別講師に招いて、よりいっそうの充実をはかった。
先月26日から始まった第1回目は、ツアー通算10勝でシニアツアーで4年連続の賞金王に輝いた髙橋勝成。そして2月2日からスタートした2回目は“世界のアオキ”。

その指導方法は、ちょっぴりあの“ミスター”とかぶる部分があるかもしれない。少年野球教室で、自ら手本でバットを振りながら「ばーっといって、がーんと打つんだ」と、アドバイスをしたという長嶋茂雄氏。

その道を極めた天才だけが理解出来る独特の世界観。まだ若い参加者たちは、ついて行こうと懸命だ。その中には、ベテランの横田真一もいて、すかさず青木。
「おい横田。お前、打ってみろ。いっつも俺の真似やってんだから」と、バラエティ番組などで横田が、日本が世界に誇るレジェンドのモノマネをたびたび披露してきたことを知っていて、そんな皮肉で参加者たちの緊張をほぐす心憎さだ。

横田のように、青木との付き合いが長く、また順天堂大学の大学院医学研究科の研究生として、今回の強化合宿でも講義の中心に据えている廣戸聡一先生の「フォースタンス理論」に精通しているベテランならまだしも、初めて青木と対面する若い選手たちのために、青木のいわんとすることを、ときおり鈴木が要約して総括してやる。

「コースに来てすることは、まずコースを覚えろ。風がどちらから吹いているかを、まず知れ」。特に上がりホール。「14番は右からか左からか。15番は? 16番、17番はアゲンストかフォローか。18番はどうか」。朝起きて、ホテルの窓から風向きを読み、各ホールの風向きを瞬時に描けるくらいでなければ戦えない。ピン位置もそう。右、左、真ん中、奥、手前。初日のピン位置は? 3日目は、そして最終日は?
「練習日のうちに、想定して練習しておかないから、本番になって“こんなところに切るの?”と驚いたりするんだ」。本戦になって、それではもう遅いのだ。

「ショットは曲げて打て」。曲げたほうが、コースを広く使える。真っ直ぐしか頭にないから林に入れたら、横に出すしかなくなる。「曲がって当たり前なんだ。大切なのは、曲がったときの処置を練習すること」。スイングしたときのグリップの形とか、肩の位置とか、フィニッシュ時の姿勢とか、青木はそんなことには一言も口を出さなかった。「そんなことは、自分の感覚でやればいんだ」とその辺は素っ気ない。

「じゃあドローヒッターが、どうやって、フェードを打つのか? 簡単だよ。自分には、フェードが打てると思うこと。打てたらいいな、じゃなくて俺は打てると思うんだ。フェードを打つつもりで構えれば、打てる。きれいにやろうと思うなよ。打てなかったらどうしよう、じゃなくて“打つ”んだ。そしていっぱい失敗したらいいんだよ。年季はいるぞ、やれるまで。時間はかかる。練習しなさい」。

そう言って、参加者に一発打たせて「な? ほら、打てたじゃないか!」と、目尻を下げてえびす顔。
と、たちまち鬼の形相で「俺の話で満足するな。満足しても、上手くはならん。まず疑問を持たないと。そして自分に自信を持たないと。やれば出来る、と思うんだよ」。

前夜の廣戸先生の講義で参加者と、選手会理事の桑原克典とともに青木も耳を傾けた「フォースタンス理論」を踏まえてこの日3日は、フェニックスカントリークラブの練習場で行われた実技講義では、何度も「つまり、(廣戸)先生の仰ってることは・・・」と、自ら培ってきた技術と理論とを重ね合わせて参加者たちに語りかけた。

「俺はドライバーも、セカンドショットも上手くない。だけど、バンカーだけは、誰にも負けない。そう思ってやってきたんだ」。1983年のハワイアン・オープン。日本人として、初めて米ツアーを制した奇跡の1打はピンまで128ヤード。最終日、最終ホールのチップインイーグルのクラブはピッチングウェッジだ。今でも本人さえ首をかしげる1打。「バラタのボールでよく、あそこまで跳んだよな・・・」。翌日に本人が同じクラブで、同じ位置から何度挑戦しても、グリーンには届かなかったという伝説の1打。
「アプローチはまず入れる気で打つこと。入らなくても、乗せたら次は、必ずワンパットで入れるんだと思うこと。そのために、他の人が寝ている間も、俺は練習をした。だから今も自信があるんだ。人と同じこと、同じ時間、練習していてもダメで。それじゃ勝てるわけがない。どうしたら人に勝てるか。そういう練習の仕方をお前たちに教えたかった」。宮崎で、青木節が炸裂した1日。

「でも、今日、俺が言ったことはあくまでもヒントだから。実際に稼ぐのは、お前たちだから。いま自分に出来ること、やれることをずっと続けていけば、自ずと結果がついてくるから。頑張ってください」。

いよいよ今月16日からのこの強化合宿の最終回にあたる3回目に、特別講師をつとめるのはトミーこと中嶋常幸。中1週空いて2週後にはまたここ宮崎で、レジェンドによる濃密な講義が繰り広げられる。

関連記事