記事

カシオワールドオープンゴルフトーナメント 2024

自身初の年間2勝を達成した岩田寛が自分のことより気にかけたこと

岩田寛(いわた・ひろし)が2打差を逆転。
6月のJGTO主催「BMW 日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ」以来の今季2勝目を通算7勝目で飾った。


1打リードの単独首位でプレーを終え、プレーオフに備えていた練習グリーンで朗報を知った途端の逃げ足は速かった。

ペットボトルの水を手に、向かってくる若い選手たちの姿を見つけるなり猛ダッシュ。

全力で駆け回り、恒例の水シャワーを回避。
「風邪をひくのが嫌だから」。
若い子たちをさっそうと振り切った43歳は遠くでバンザイ。この日一番ニヤニヤした。



    本大会は、昨年まで3年連続13回出て、2007年の10位が最高。

    バーディの獲りあいでは攻めあぐねてしまうが、今年は特に土・日に風が吹き、日曜日はグリーンの速度が格段に増した。

    岩田も前半9ホールはバーディ、ボギーを2つずつ。伸ばせないままターンをしたが、13番の速報ボードは「上が意外と伸びていない」。
    確認した途端に、136ヤードの2打目を9アイアンで1メートルにつけバーディ。

    15、16番共にピンそばのチャンスにつけ今週初の首位を奪うと17番で3メートルのフックラインをセーブし、1打リードで迎えた18番パー5は、最後下りの1.5メートルこそ逃したが、「右ならどこでもいい。ティショットで絶対に左に打たないように」。



      鉄壁の守りで左ラフの傾斜地から、奥バンカーに入れて、寄せて2パットのパーで勝ち切り、「ここは苦手なコースでしたけど、今日で大好きになりました」と珍しく声を張り、地元ファンの喝さいを浴びた。

      今年6月のJGTO主催「BMW 日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ」で通算6勝目を飾ったが9月、10月の7大会は、なぜか全滅(棄権2)。

      「いろいろあって、思い出したくないです。部屋から出たくないし、誰とも話したくない。年に1回あるんですけど、ゴルフが上手くいかないと陰(いん)になっちゃう」と、引きこもりがちになったが、底を極めた日米共催「ZOZOチャンピオンシップ」でやっと開放。

      「一番下まで行ったので。これ以上はやばいかな、と」。
      終盤に、再起動するなり一気に今季2勝目を達成。

      プロ20年目にして年間2勝は初めてだ。

      「今までしたことがなかったので、嬉しいです」と、とつとつと述べた。

      これで賞金ランクは前週の12位から5位に浮上。
      次週のシーズン最終戦「ゴルフ日本シリーズJTカップ」で初の賞金王へ、可能性を残すことができたがしばし熟考…。

      「それは…明日考えます。今は余韻に浸らせてください」と、いつもみたいにけむに巻いた。

      むしろ自分のことより、1差で初優勝を逃した清水大成(しみず・たいせい)の涙を気にかけた。




          「何か声をかけようと思ったけれど。僕も泣いちゃいそうだったんでやめました」と、ただそっと手を握り返すだけにした。

          勝者を祝福しようと18番グリーンで待ち構えていた若い選手たちには、「ついででしょ?」と言った。
          確かに、中には清水を出迎えに来た者たちもいただろう。

          「僕を応援してくれる人はあまりいないだろう、といつも思いながら試合をしてるんですけど。それでも、僕を応援してくれる人がいます。感謝しています」と、精いっぱいの謝礼を述べた。

          口下手だけど、1語1語に心がこもる。

          26季守ったシード権を失い涙を流した56歳の谷口徹(たにぐち・とおる)は来季、1年シードの生涯獲得賞金25位内の資格を使うか迷っているが、「使うと思いますよ、たぶん。僕が使わせます。いないといないで寂しいので」。

          さりげないセリフにベテランへの敬愛がこもる。

          賞金シードのかかった今週は、他にも当落線上で格闘する昔なじみの選手たちの名前を挙げ「ずっと(結果を)気にしてました」と、思いを寄せる。

          翌月曜日に、食事の約束をしていた20年来の友人は、「あしたヒロシが勝つと思う」と、昨晩の電話で断言してくれたそうだ。
          「ずっと応援してくれる友人なので。信じてました。その言葉でリラックスしてプレーすることができた」。

          あすの食事会は祝勝会だ。

          大会会長が表彰式のごあいさつで、岩田のコメントを受け取る形で、「私たちも岩田選手を応援していますよ」と、祝辞を述べられていた。
          独特のヒロシワールドは、主催者さんたちの心さえ揺さぶる。

          関連記事