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石川遼は2日連続の大敗……
悔しさをこらえ、18番でチームに合流するなり、チャーリー・ウィに言われた。
「もし、プレーオフになったらリョウがいくんだよ」。
ゲームはいまだ接戦が続いていた。
その時点で、最終組のトンチャイ・ジェイディが勝ち点を持ち帰れば欧州と同点にもつれ込み、各チーム2人1組のダブルス戦でのプレーオフの可能性もあった。
もちろんその状況は石川も重々承知していたが、自分がサドンデスに加わるという点だけが納得出来ない。
「なんで僕なの?」と驚いて聞き返したがウィは、「リョウしかいない」と言うばかりだ。
最終日は2日連続の大敗を喫した。
ピーター・ハンソンに5アップを許した。
「相手が素晴らしいプレーをしてくれたので、僕がもうちょっと良いゴルフが出来れば良い勝負になったんですけど。……って僕、昨日と同じようなこと言ってますね」と、苦笑いで顔をしかめた。
前日2日目は、小田孔明とのフォアサムで、カールソンとノーレンに常に先手を取られ「マッチプレーの怖さを経験した」。
いよいよ最終日は初日からペアを組んだ小田と離れ、「ちょっぴり孤独」なシングルス戦で「それを生かす」と勇んだが、いったんはまり込んだ罠からとうとう抜け出せなかった。
「バーディパットを入れなきゃいけない、とか、ここでべたピンにつければプレッシャーをかけられる、とか……」。
そう思うほどに、いつものスイングが出来ない。
池に入れた浮島の8番パー3もそうだった。
「練習どおりにすれば真っ直ぐ行くのに。他に真っ直ぐ行く打ち方が、他にもあると思ってしまった」。
11番は、今度は「力み」から、またしても池。
また、終始先手を取られる流れは前日と同じパターンで、ハンソンに完全につけ込まれた。
「逆境に負けてしまった。相手の思うツボだった。圧倒された。精神面においても自分より、はるかにレベルの高い選手にたたきのめされました……」。
そんな自分が仲間をさしおいてプレーオフ?!
「あり得ない。だって今日は僕が一番、ぼろ負けしているんですよ」と目を剥いたがそこにはキャプテン・ジョーのひそかなシナリオがあったのだ。
「トンチャイが最後にステンソンに勝って、そしてプレーオフでリョウ・イシカワが今日の悔しさを晴らす」。2日続けて負けたことで、少なからず傷ついているであろう18歳に、最後に華を持たせてやろうという直道の親心。
石川も、キャプテンの気持ちを汲んですぐに練習場に向かった。
せめてスイングを万全の状態にして直道の思いに報いたい。
結局、出番は訪れなかったが「ジェイディが勝ってくれると信じて練習をしたおかげで、今後に向けて、良い状態で終われた」と、緊張感を維持した状態の中で、思い通りのスイングを取り戻すことが出来たのはひとつ、大きな収穫だった。
ちょうど3年前にプロ宣言をしたのがこの日1月10日。ほろ苦い記念日になってしまったが「そういう日もあると思って今年はまたここから始めたい。ものすごく良い勉強になりましたし負けたこの2日間というのは忘れたくない」。
悔しさをしっかりと胸に刻んだのは、それはもちろんこの日をバネに、さらに成長してまたこの舞台に戻ってくるためだ。
昨年末に、観光親善大使に就任した大会の開催国タイは「特にグリーンカレーが美味しくて。また何度でも訪れたい場所だから」。
そして言うまでもなく、次に来るときもまた、アジア代表としてがいい。
「もう一度メンバーに選ばれるよう今年も頑張ります。そして来年は、絶対にリベンジしたい」。
新年早々の敗退を、今年1年のバネにする。