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住建産業オープン広島 2001

「最後のほうは、プレーをほとんど覚えていない…」

土壇場の集中力、深堀圭一郎は「ゾーンに入っていた」

 プレーオフは、18番ホールの繰り返し。
 先に尾崎のティショットを見届けてから、深堀がセットアップに入る。
 いったん後方からホールを見下ろし、打ち出し方向を定めつつ、精神を集中させていく。
 そして、アドレス。
 あたりはシン…と静まりかえり、深堀が、テイクバックを始めようとしたその瞬間、雑音が入った。
 携帯電話の着信音。ティグラウンドを囲む、ギャラリーのものだった。
 集中力がピークに達していた深堀は、ボールをにらみつけたまま、その音もお構いなしでスィングを始動させようとしたが、2度、3度と鳴り止まないベルに、とうとうアドレスを解いた。

 もう一度はじめから、ルーティンのやり直し。
 同時に、雑音によって緩みかけた精神を、再び同じ手順を踏みながら立て直し、勝負のショットに挑んだのだった。

 本戦のあがり3ホール。16、17番は、いずれも長いバーディパット。
 しかしその正確な距離も、深堀は「覚えていない…」と首をかしげた。
 「ゾーンっていうんでしょうか…。いままでにないくらい、気持ちが入っていたラウンドでした」

 いったんは、「もう負けた」と諦めた勝負だった。
 首位でスタートした最終日。
 いきなり出だしで、懸念していた「パットの虫」が出た。
 5月のダイヤモンドカップで、ホテルのドアにはさんで右手人差し指を負傷したのがきっかけで始まった、パッティングのフィーリングの悪さ。
 それが、優勝争いのプレッシャーで誘発されたのだ。

 「2番ホールで、15メートルのファーストパットを2メートルオーバー。そのあたりからリズムが悪くなった。3番では、1メートルを3パット…ガッカリきました。心がくたびれていましたね」

 だが、萎えかけた心は、類いまれなる集中力でカバーした。
 「強気で打とう」懸命に気持ちを奮い立たせ、8番、15番でバーディ。
 続くあがりの3ホールは、「すべて、気持ちの問題。“入れた”というより、“何かが入れさせてくれた”、といったほうがいい」
 劇的な3連続バーディで、先にホールアウトしていた尾崎を捉えた。

 プレーオフ1ホール目。
 携帯電話の音にも、深堀の集中力は途切れることはなかった。
 「最高に、気持ちが入った」というティショットは、フェアウェーど真ん中。
 手前1メートルのウィニングパットも、「どうやって手を上げたのか覚えていないくらい集中していた」と深堀。
 絵に描いたようなドラマティックなクライマックスに、「こんな展開、自分でも、信じられない」と涙ぐんだ。

 大会連覇。
 そして、今年も、この大会過去9勝を誇る尾崎に競り勝って、
 「広島、そして、このコースには、とてもよいイメージがあって…。すごく、自分の世界に入り込める感じがするんですよ」
 深堀が、“ジャンボの庭”・八本松コースで、新たな伝説を作った。

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