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「選手の思いがスポンサーを動かす」湯原信光(マスターズGCクラシック エグゼクティブプロデューサー)
スタートティでトランシーバー片手に、なにやら険しい顔をしてさかんに指示を出す。
そんな湯原に、不思議そうな顔で声をかけるのは、他の出場選手たちだ。
「湯原さん、何やってんですか。プレーしないんですか?」。
中には「早くスパイクに履き替えてこないとスタートですよ!」と、冗談まじりにせっつく者もいた。
そのたびに、湯原は苦笑いで答える。
「今回は、裏方だよ!」。
最初に湯原に声がかかったのは昨年末だった。
11月に「次代を担う若手選手の育成」という趣旨のもと、兵庫県三木市にあるここマスターズゴルフ倶楽部で「マスターズGCドリームマッチ」が開かれた。
タイガー・ウッズもゲームに参加して大いに盛り上がった同イベントは関係者の中に、湯原の日大時代の同級生がいて、ある日相談を持ちかけられたのだ。
主催の延田グループが「有効に使って欲しい」と同イベントで集まった収益金を、日本ゴルフツアー機構(JGTO)に寄贈したいと言っている。ついては、何か良い形で生かせるよう知恵を貸してもらえないだろうか…。
今年8月で50歳。シニア入りを目前に控え、ゴルフ界全体の発展は湯原にとっても切実な願いだ。
主催者の意向を汲んで、さっそく湯原は新規のチャレンジトーナメント開催を提案した。
しかし主催者はQT組だけでなく、数人のシード選手にも挑戦してもらえるような大会にしたいとの希望があった。
そこでQT組を出場資格のメインに、シード選手には若干の主催者推薦枠を与えるという形で、今回のツアー特別競技「マスターズGCクラシック」は誕生したのだった。
そして、いざ本番ではスポンサーと、今回特別主管のJGTOと、出場選手と。
3者の“橋渡し役”として最後まで奔走したのがやはり、大会のエグゼクティブプロデューサーに任命された湯原だった。
コースセッティングにも、現役プレーヤーとしてのこだわりを存分に取り入れた。
会場のマスターズゴルフ倶楽部は、グリーンの面積が小さいのが特徴だ。
それを際立たせるように、グリーン周りのラフを伸ばし、特にロングアイアンでピンを狙うショットにプレッシャーがかかるような工夫を凝らした。
その分、フェアウェー幅はゆったり取って、良いショットにはちゃんとご褒美がつくようにするなど、細部まで行き届いた設定は「やっていて面白かった」と、選手たちにも好評だった。
「みんなは、先輩の俺が怖くてそう言ってくれただけかもしれないけどね」と、笑う。
「でも、そう言ってもらえると、俺も頑張ってお手伝いした甲斐があったよ」と、満足そうに振り返る。
そして大会の最後には、さらに嬉しいことが待っていた。
最終日の表彰式終了後にスポンサー関係者と、チャンピオンを囲んで行われるパーティに「僕らも出席します」と申し出て、実際に最後まで残って出席してくれた出場選手がいたことだ。
男子ツアーはいま過渡期を迎え、選手たちの意識が確かに変わりつつあることを、湯原が実感した出来事だった。
「そんな選手たちの思いが、必ずスポンサーの気持ちを動かしてくれると思う」。
そう強く確信出来たことが、今回の労の何よりの収穫だったと湯原は思っている。