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ANAオープン 2008

矢野東「今日はさすがに呑ませてください!」

20代のころはゴルフ一色の人生に、どこかで抵抗する気持ちがあった。「一生懸命が、かっこ悪いという思いもあって。どこか“なあなあ”でやっていた」と、矢野は言う。

欲望のままに、酒もたばこも味わい尽くした。
ツアー初優勝のときもそうだ。2005年のアサヒ緑健よみうりメモリアルは、福岡県の麻生飯塚ゴルフ倶楽部で開催。

「あのときは3日目の夜も“天神”で夜中2時まで呑んでいた」と打ち明ける。
今大会の地元・北海道なら、札幌の“すすきの”で午前様。
まずは生ビールで喉を潤し、焼酎を10杯は軽く空けていた。

それでも当時は「そこそこ何とかなった」のだ。

数年前から着手した肉体改造もどちからといえば、外見のかっこよさ重視で始めたことだった。
ベンチプレスで隆々の筋肉に、我ながら惚れ惚れしたこともあったが、ではそれが、どれほどゴルフの役に立ったのか。

今は山坂元一トレーナーの指導のもと、週に4度のぺースで40分、約6キロの道のりを黙々と走る。

31歳のいまは深酒もたばこもきっぱりとやめた。
どんなに苦しいトレーニングを積んでも、そのあとの楽しみに身を任せれば元の木阿弥。
「数字にもきっちりと出るから」。
せっかく減らした体脂肪も、飲んだくれては台無しと痛感してからは一転、ストイックな毎日を頑固なまでに続けている。

たとえば、生活のすべてをゴルフに傾けて生きる片山のように。
「僕も“ゴルフバカ”になりたい。何かを捨ててでもそれに賭けたい。シンゴさんみたいに、100のうち、ひとつでもゴルフにプラスになることなら何でもやろう」。

ぶっちぎりのツアー通算2勝目は言葉だけでなく、その思いを無骨なまでに、ひとつひとつ実行に移して来たたまものだ。

ずっと我慢を続けてきただけに、仲間から浴びたシャンパンシャワーは、ことのほかウマかったようだ。
表彰式、ボランティアパーティと着替える間もなく全身アルコールでべったりと張り付いたシャツから酒の匂いをプンプンさせたまま臨んだ優勝インタビューで、「今日も禁酒ですか」との問いには思わず感嘆符をつけて小さく叫んだ。
「・・・今日はさすがに呑ませてくださいっ!」。
この日だけは特別に禁を解いて、存分に祝杯をあげるつもりだ。



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