Tournament article

カシオワールドオープン 2010

田中秀道が単独首位スタート

ツアー通算10勝。プロ8年目の98年には日本オープンを制した。今年、39歳を迎えた身長166センチの小さな巨人がまさに、崖っぷちに立たされている。

絶望の淵に、突き落とされたのは9月だ。
米ツアーから持ち帰った腰や首痛から復帰した昨年09年にシード権の復帰に失敗。ファイナルQTランク9位で希望をつないだ2010年もまた思うような結果が出せず、「今年はQTもさらに下のサードから這い上がってみよう」と覚悟を決めた矢先だった。

マネージメント事務所から「サードQTのエントリーを、出し忘れてしまった」との連絡が入った。そのときにはすでに、締め切り日の3日から1週間が過ぎていた。
自分は試合に専念して任せきりだった。」「自分でちゃんと確認しないのが悪い」と言い聞かせながらも、ゴルフに集中出来ない。

どんなに頑張っても「もう、ファイナルQTにも行けないんだ・・・」。
その悔しさが、集中力を奪っていく。
忸怩たる思いのまま、シーズンも終盤を迎えた。

昨年の10位内の資格で権利を得た2週前の三井住友VISA太平洋マスターズが自身の最終戦になるはずだった。
まだ賞金ランキングで100位にも入っておらず、「これが本当にもう最後だ」と、なかば絶望の中で、会場入りするなり、吉報が待っていた。

翌週のダンロップフェニックスと、そして今週のカシオワールドオープンで、主催者推薦をもらえることになった、と知らされた。
いきなり降ってわいた幸運に、折れかけていた心がよみがえってきた。

残り2戦。「楽しむ、というのは無理かもしれないが、いただいたチャンスを生かせるようなゴルフがしたい」。
スポンサーの厚意に応えたい。その一心で、高知入りした。

一度は諦めたファイナルQTへの参戦も、この“最終戦”で賞金ランキング80位内に潜り込めば、権利が得られる。もっと言えば、来季のシード権が与えられる上位70位に入れればもう、言うことはない。

秋頃から、ショットは上り調子だった。だがいかんせん、パットがついて来ない。「若いころは、感性で打てていた」。
それで勝ち星を重ねることが出来たが、「今はもう、雰囲気では打てない」ということは、この数年で嫌というほど思い知らされている。

練習器具を使っての矯正や、型にはめた打ち方は本意ではないが、「以前と同じようには勝負出来なくなったことを、認めなければいけない」。
コースに出たら、練習場での素振りどおりにストロークしよう、と何度も言い聞かせる。
感性に頼って打ちたくなる欲望を懸命に抑える。

先週は、田中がアドバイスを送るなり、単独3位につけて、賞金ランキングも23位に食い込んだ弟子の富田雅哉の活躍に嫉妬半分、励み半分で、今週は俺がと意気込む。

10勝目をあげた2001年のミズノオープン以来の首位には「嬉しいけれど、勘違いはしないよう。あくまでも僕は、チャンスをいただいている身ということを考えながら、なんとか来年につながるようなプレーがしたい」。
恩返しの気持ちが何よりの原動力だ。

関連記事