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〜全英への道〜 ミズノオープンよみうりクラシック 2010
薗田峻輔がツアー初優勝!!
実際に味わう歓喜は、想像していた以上だった。
「予選を通過して、上位で争うだけでも嬉しいのに。勝つってことは、恐ろしいくらいの達成感がありました」。
初めて経験する最終日最終組。その重圧を乗り切った安堵と充実感。大ギャラリーの声援と、仲間からの心からの祝福。
「感極まった」。
その思いは、いったん戦い終えた18番グリーンを下りて、やってきたスコア提出場でピークに達した。思いがけない顔が、そこにあった。石川遼が、両手を広げて待っていた。
杉並学院高時代の2つ後輩。その腕の中で、号泣した。確か耳元で石川は、「ナイスプレー」と言ってくれたとは思うのだが、よく覚えていない。涙でぐちゃぐちゃの声で「ありがとう」と、返したような気もするが、定かではない。
でも、「止まンねえじゃないか」と、心の中で思わずつぶやいたことははっきりと覚えている。
「これじゃ、泣き止められねぇじゃん」。
むしろ、ますます泣かしてくれた後輩に、多少のうらめしさと、胸いっぱいの感謝の気持ちが溢れ出た。
石川が昨年、アマチュアから数えて3勝目、プロとしては2勝目を挙げて、史上最年少への足がかりとした舞台で、今度は自分が優勝カップを掲げている。
「まさか、自分がこんなに早く勝てるなんて。思ってもみなかった」。
今年、連覇を狙った石川は、52位に終わった。現在、杉並学院高2年生の浅地洋佑くんは、24位で2年連続のベストアマチュア賞をつかんだ。
才能溢れる後輩たちがひしめく中で「面目を保つことが出来た」。その一方で、「ネックとなるのが今週が4日間競技なら、どうなっていたのかな、ということかな」と今度は苦笑いで、首をかしげた。
前日3日目が悪天候のため中止となって、思いがけずトップでスタートすることになった最終日。かつて「ハニカミ王子」と呼ばれていた時代、その石川が「王様」と評した。確かに、54ホールの“短期決戦”に本人には物足りなさや、半信半疑の気持ちが沸いてくるのも仕方ないが、それでもまさに、キングの名にふさわしいゴルフで掴み取った初の頂点だ。
昨年12月のプロ転向から、出場わずか5試合目の快挙達成でもある。
石川は「ドライバーの飛距離と、アイアンのキレはもちろん、薗田先輩の魅力は強気のパッティング」と言った。その言葉を裏切らないこの日の18ホールだった。
スタートの1番で、81ヤードの第2打をピンそば2メートル。ややスライスを沈めてバーディ発進。続く2番はイーグルだ。フェアウェーから残り230ヤードは3番アイアンで、やはり2メートルにつけた。
それは「プレッシャーとか、どうのこうのではなく、もうやるんだ、という気持ちに変わった瞬間」。途中、谷口徹に1打差まで迫られて、さすがに萎縮した場面もあったが、13番で6メートルのやや下りフックをねじ込んで、すぐに強い気持ちを取り戻した。
上空を舞う強い風を読み違えたり、苦しみながらも中学時代、豪州でのゴルフ留学で培ったパンチショットでチャンスを作った。ミスらしいミスもほとんどなく、最後まで攻めの気持ちを忘れなかった。最終18番のティショットは、今季は開幕戦のデビュー戦から2戦連続の予選落ちで痛感したフェアウェーキープの重要性を最優先に、「8割の力」で振ってなお、325ヤードのビッグドライブ。
第2打は、躊躇なく3番アイアンを握り、池の向こうのピンフラッグをデッドに狙った。イーグルトライは惜しくも外したが、堂々のバーディフィニッシュ。あの谷口にも影さえ踏ませず、3打差で振り切った。
まだアマチュアだった石川が、史上最年少優勝を飾った2007年。「あいつに出来るなら、俺にも出来ると思っていた。今思うと、アホだった」。
翌年に、史上最年少のプロ転向を果たし、それから破竹の勢いで昨年4勝。史上最年少の賞金王に輝いた。今年もその勢いはとどまるところを知らず、4月の中日クラウンズでは史上最少スコアの58をマークして、ツアー通算7勝目を挙げた。
確かに、後輩の背中はいまはまだ、ずっと先にある。
思った以上に早く達成することが出来たツアー初優勝ではあるが、あれからプロの厳しさを、少しでも経験した今なら分かる。
「これが72ホールだったなら、どうなっていたかは分からない」。
しかし、そう思えばこそ、昨年から取り組んでいるトレーニングにこれからもますます精を出し、トッププレーヤーと戦う機会を増やし、経験を積むことで、石川との差を徐々に縮めていくしか道はない。
そして、いつかは「遼を抜いてやる、って気持ちはある」。
まだ、そのスタート地点に立ったばかりだ。驚異の18歳の、真のライバルになれるかどうかは、これからにかかっている。「自分が悪いときこそ、遼の存在は刺激になる」。王様にとって、励みにするには申し分ない偉大な後輩が、この先も大きな目標のひとつであることに、変わりはない。