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アジアパシフィックオープンゴルフチャンピオンシップ パナソニックオープン 2010

石川遼がホールインワンを達成

ツアーで初めての快挙達成の瞬間は、大切なホスト試合でやってきた。右からの風の中、迷わず握った7番アイアンは、ピンに向かってまっすぐに飛んだ。

ボールの行方をじっと見守る石川。
「イメージより右に流されている感じがあったので、これ以上は流されないでくれ、と」。
思わず祈った瞬間に、ピンの手前で数回バウンドしたボールは忽然と、視界から消えた。
「一瞬、何が起こったのか分からなかった」。

187ヤードの6番パー3は、コースの中でもっとも奥まったホールのひとつにもかかわらず、沸き起こった地鳴りのような歓声は、クラブハウスにまで届いた。

戸惑いつつも、同組の先輩、薗田らとハイタッチ。そして万歳。
それでもまだ信じられず、グリーンに上がってそっとカップの中をのぞき込む。ボールを確認してようやく実感が沸いた。
拾いあげたボールは躊躇なく、観衆に投げ込んだ。

「今回は風に助けられたのと、ピンのほうに来いという、ギャラリーのみなさんの願いが乗っかっていたと思うので」。
感謝の気持ちを込めたとっておきのプレゼント。

「マスターズで優勝したボールなら、誰にもあげたくないけれど」。
プロ初Vをあげた2008年のマイナビABCチャンピオンシップは興奮のあまり、思わず投げてしまったが、2009年のミズノオープンよみうりクラシックから数えて、計6個のウィニングボールは自宅に保管してある。「でも今日のボールも僕が持っていたところで、大切にするかといったら、そうでもないと思ったので」。

ただし投げる際には注意深く、人が少ない箇所を選んだ。「殴り合いにはならないと思うんですけど、それに近い危険な光景を以前に見たことがあって。僕のほうでも気をつけなくては」との配慮からだ。

あえて「人がガラガラのほうに投げましたけど、誰も拾ってくれなかったらショックでしたね」。やはり、多少の奪い合いにはなったようだが、それでも大きな混乱もなく、無事、中年男性の手におさまって、安堵した。

そして、ロープの外から聞こえてくる声。「おめでとう」に混じって、感極まったようなお喋りは、「いい物見たな」とか「ここにいてラッキーだったな」とか、奇跡を目前にして、本音を語り合うギャラリーのみなさんの率直な感想だった。

「そんなふうに言っていただけると、凄く胸に響きます。プロとして、幸せな瞬間です」と、嬉しそうに目を細める。

前半インの9ホールは、すべてスコアどおりに終わった。どんなに難コースでも「守っていいことは何もない。僕はすべてピンを狙う」と言ってはばからない石川にとってはなおのこと堪える平凡な内容は、13番でバンカーからしのぎ、15番で1.5メートルを拾うなど、評価出来る「パー」もあるにはあるが、たとえば18番では「190ヤードの第2打を4番アイアンで2メートルにつけるところまでは完璧な内容」。

しかし、この絶好のチャンスを外して、思わず頭を深く垂れた先は、グリーンサイドのスポンサーテント。大会主催のパナソニックと所属契約を結ぶホストプロは、ぎっしり満員のギャラリースタンドも、興奮の渦を起こせないまま折り返すことを詫びた。さらに1番ではボギーを打った。

吹き荒れた風は勢いの強さというよりは、むしろ呼吸するようにいきなり強く吹いたり、途端に止んだりする難しさ。右からのアゲンストと読んだ15番の第2打は、普段より一番手上げて8番アイアンを握ったが、打った瞬間に風が止み、グリーンをオーバー。
「こんなに風がめまぐるしく変わったのは今までで一番かもしれない」。

難条件に、重い流れを断ち切ったのは、5番でこの日の初バーディ。「ここからは自分らしいプレーが出来たと思う」。
ホールインワンという最高の形でスポンサーや、応援してくださるファンの恩に応えたあとに「ボギー、バーディ、ボギーの上がりも、僕らしいといえば僕らしい」と、微笑んだ。
主催者よりご褒美のホールインワン賞金100万円を受け取って改めて、今度は恐縮しきりで頭を下げた。

初日は荒天のために中止となり、3日間の短期決戦は「改めてやっぱり短い」と嘆きつつ、首位とわずか1打差で迎える最終日に責任感は人一倍の19歳は、3日目の快挙だけでは、まだ物足りない。
「上とどんな差がついても諦めない」。
今度は今季3勝目で、ホスト大会を盛り上げたい。

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