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東建ホームメイトカップ 2012
チャレンジの星!! 額賀辰徳(ぬかがたつのり)が首位スタート
「僕はただでさえ、取ればもっともっとと行くタイプ」。しかし、それは今の本意ではない。7番で「寄せよう」と思った奥から下りの3メートルが決まり、8番でも右から下りの2メートルが入り、9番でも奥から3メートル。バーディを重ねれば重ねるほどに、「今日はまだ初日」と気持ちを抑えようとするほどに、10番でもまた左横2メートルが決まって、逆に冷や汗をかいたほど。
「今日はピンを狙ったショットは一度もない」。それにもかかわらず、2012年の開幕戦初日に64は7アンダーのロケットスタートにも、「最初に思ったことは、まだ初日なんだからもっと楽にやりたかった」ということ。6ホールのティショットで刻むなど、手堅いゴルフを心がけてもなお8個のバーディ量産は、願ってもなかった好発進にも逆に気持ちが引き締まる。
2009年から2年連続のドライビング王は、この復帰元年にあたって、飛距離へのこだわりを捨ててきた。身長183センチの恵まれた体格に、2006年のデビュー時から将来を嘱望されてきた大器は、2010年に念願の初シード入りを果たしながら、わずか1年の陥落こそもっともっと、と欲しがったことに要因があったからと本人はみている。
飛ばすことへの欲求ばかりが先に立ち、ボールが制御しきれなくなった。ドライバーでさえ飛びすぎて、「あんなところにまで行くのか、と」。本人さえ唖然とすることもあり、スコアをまとめるどころではなくなった。
貞方章男の仲介を受けて、2年前から師事する米国人コーチのリチャード・エイブル氏も言った。
「良いときは、もっとゆったりと振っていたよ」。このオフは2月始めから米フロリダに腰を落ち着け、本格的なスイング改造に着手。「簡単に言うと、脱力したスイング」。
それに合わせてバランスを重く設定するなど、クラブにも改良を加える作業は、まさに開幕直前まで続き、アイアンは前日水曜日にも再び調整をしなおしたおかげでようやく夕方に「練習場のマットの上から少し打てただけ」。まさにぶっつけ本番の投入も、「クラブヘッドが良い具合に効いて、手応えもある。それがうまくはまってくれた」と直前の“突貫工事”も奏功した。
「ショットのばらつきもなくなって、狙った距離が計算しやすくなった」と効果も実感することができた。
それでも元来の飛距離はほとんど変わっておらず、今週は7番と17番で計測中のドライビングディスタンスも平均304ヤードを記録して、ランク1位も「意識せずに飛んでいる」。本人も理想とするスイングの完成も着々と近づいて、おのずと先週のマスターズを彷彿とさせる。
バッバ・ワトソンは米ツアーきっての飛ばし屋だがそれだけではない。「彼がすごいのは、ドライビングディスタンスだけでなく、パーオン率でも1位なこと。飛んでなおかつアイアンも、攻め方もうまい。僕には足りないところです」。
開幕直前の早朝のテレビ観戦も、日本が誇る飛ばし屋には特に、大いに得るものがあった。
昨季のチャレンジトーナメントで賞金ランク1位に輝き、戻ってきた表舞台。「今年は優勝したい」。開幕するなり、さっそくのチャンス到来も、逸る気持ちをたしなめる。「2日目も地に足つけてやりたい。いま、自分がしていることを確認しながらじっくりと行く」。
胸のすくような渾身の豪打は、最終日の見せ場まで取っておく。