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ANAオープンゴルフトーナメント 2012

伊澤利光は頑固に「僕の優勝は絶対にありません」

初日から2日連続の68で、通算8アンダーは3位タイで上がってきたのに、伊澤はきっぱりと言い切った。「この状態で優勝争いしても、僕はまず勝てないでしょう」。

最終9番で、ティショットを左に曲げてチャンスのパー5でパーに終わって「広いし自信を持って、自分にプレッシャーをかけて打ってみようと思ったのに、あんなのじゃあ・・・」。

諦めなのか、達観か。どちらとも言えない表情を浮かべてまた言った。
「はっきりと言っときます。今までこんな状態で、僕が勝った試合は一度もない。この程度のゴルフでは、優勝争い出来るとは思えない」。

ツアー通算16勝。賞金王2回。2001年のマスターズでは、当時日本人最高の4位タイにつけた。その年稼いだ約2億1793万円は、1年の獲得賞金としては、今でも史上最高額だ。

あのアーノルド・パーマーに、「キングオブスイング」とまで称された。その伊澤が輝きを失って、もう長く経つ。
「1年、2年・・・いや、ここ最近ずっとですかね」。

日本が誇るパワーフェードに陰りが見え始めたのは、5年ほど前くらいからか。
理想のショットが打てなくなった。
そればかりか「許容範囲の中にもない。毎試合、毎試合、許容範囲の外にボールが行ってしまうと前向きにはなれない」。

世界も狙えると称されたほどのスインガーと呼ばれたからこそ、その落差に苦しんだ。
「アプローチとパットでしのぐというのも限度がある。やってもやってもうまくいかない」。
昨年は途中で「心が折れた」。ちょうど1年前だ。10月のコカ・コーラ東海クラシックで2日目に棄権をしてから、ぷっつりと試合会場から姿を消した。
体調不良も重なって、引きこもった。
練習も出来ない。
「何もすることがない。あまりに暇だから、料理を作った。キャベツの千切り。ハンバーグに餃子に、シチュー。揚げ物も。ひと通りはトライした」。
それでも、何の解決もないまま今季を迎えた。

2007年の日本プロで得た5年シードも今年で切れる。後悔はしたくない。「やるだけのことはやろう」と気力を振り絞っても、現状は変わらない。かつて、このANAオープンは、ホストプロ。あのころは、開幕前から報道陣に囲まれて、力強く大会への意欲を口にしたものだが、いまは後ろ向きなことしか出て来ない。

14年も連れ添ったキャディの前村直昭さん。
「彼にも生活がある。ある程度、成績を残していけないと彼にも迷惑をかける」。しばらく距離を置くことにした相棒は今季、さっそくルーキーの初Vを好アシストした。
しかし、前村さんとタッグを組む藤本佳則の活躍にも、まるで人ごと。
「今は誰も気にならない。自分のことで精一杯で」と、浮かべた笑顔も弱々しい。

「しいて言えば」と切り出した。
「マルのことは気になる」と伊澤は言った。
2人で、ワールドカップを制したのは2002年。
年は伊澤がひとつ上だが、ジュニア時代から良きライバルであり、大親友は前日初日に7位タイにつけた。今週は12日に43歳の誕生日を迎えた丸山は、しかし2日目に8オーバーを打って「昨日ですべてローソクを吹き消した」(丸山)。
「パターから始まってイライラがミスにつながった」と予選落ちをしてしまったが、それでも徐々に上向いてはいるようで、伊澤にはそれが嬉しい。

近頃は、じっくりと話すことはめっきり減ったが、「目だけ合わせて握手で去る、とか。無言で励まし合っている」。互いの思いは言わなくても分かる。
「マルには頑張って欲しいと思う。マルには負けたくないとも思う」。
丸山も、「伊澤さんは飛距離もポテンシャルもある。頑張って欲しい」と帰り際にエールを送った。親友の存在を励みに、懸命に心をつなぎ止める。

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