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関西オープンゴルフ選手権競技 2012
武藤俊憲が完全優勝
手放しで喜ぶことは出来ない。「勝ちはしたけど、危なっかしすぎる。反省点も多すぎる」。
自身初の完全優勝にも「達成感はないです」と、不完全燃焼の1日だった。
辛勝のツアー通算5勝目は、「自分で首を締めましたので」。
2打差の首位で出た最終日は一時、2位に3打差をつけるなど、圧勝ムードもそれを自ら打ち消した。
13番パー3は「ちゃんとメモを見て打てば、ああいうことにはならない」。冷静さを欠いたというティショットはカラーから20メートルものバーディトライで3打を要し、14番も「攻めた結果」とはいえ闇雲にピンを狙って奥に外し、15番は「神様の試練」。
2メートルのパーパットがスパイクマークに蹴られて、3連続ボギーを打った。金亨成(キムヒョンソン)に追いつかれて、やにわにゲームは混戦模様になった。
「でもまだ抜かれてはいない。もう一度ここから」と、気持ちを入れ直したという16番で2メートルのパーセーブも、最後の18番は、右のラフから距離もスピン量も、計算し尽くされたサンドウェッジでの絶妙な寄せも、13番からの“失態”を帳消しには出来ない。
前日3日目に、師匠から受け取ったメールがまるで、この日を予言していたようだ。「完全優勝は難しいやろう?」。
5月の日本プロで、やはり自身も完全Vを飾った谷口徹の言葉にも納得の苦しい1日。
これまで4勝のうち、3勝が逆転Vの武藤にはなおさら、「僕は後ろからまくって勝つほうが、よほど楽だな」というのが実感だ。
「打ちたいところに打てていない。パットの課題もクリア出来ていない」と、勝ってなお反省が止まらないのは、世界の舞台を見据えているから。
「今日のゴルフでは、向こうで絶対に勝てない」。打ちのめされて帰国したのは2週前。WGC「ブリヂストン招待」で、山盛りの課題を持ち帰った。「高さ、曲げ幅。スピン量」。あらゆる技量を問われる。応えられなければ「なんだこんなことも出来ないのか、とコースに振り落とされる」。容赦なくはねつけられて悔しくて、帰って練習場に張り付いた。クラブも総取り替えをした。世界で認められたいと、本気になった。
先月の全英オープンでは、確かな手応えもあったのだ。最終日こそ崩れたが、初日は6位と上々の滑り出しに、「クラレットジャグにも届きそうと感じた」。大会伝統の優勝杯が、見えかけたと武藤は言った。
「僕でも手が届きそうだと思えたんです。だけど、届かないあと1、2センチを、これからどう詰めていくか。しばらくは、自分を世界という大きなくくりの中に入れて、考えなくてはいけない」。
いずれも最高峰の舞台で希望と失望を、月替わりで味わったことで、なおさら火がついた。世界進出に向けて、本格的に模索を始めた矢先だった。
アメリカで「ハイ、ムトウ」と、名指しで挨拶してくれたのはフィル・ミケルソンだ。「その週、ロッカーが隣ということもあったけど、僕の何かしらを見て言ってくれたのだと感じた」。
サイン攻めにあった地元のギャラリーにも、口々に「全英オープンでは惜しかったね、と。見ている人は見てくれているし、評価してくれている。嬉しかった」と振り返る。
「あのときの“ムトウ”だ」と、一人でも多く言ってもらえるように。「メジャーに行って、“はい予選落ちです”“予選通ったけど50何位です”じゃあ、よろしくない」と、自分にムチ打つ。
「選手が集まったときに、あいつは日本で何勝したのか、という話になる。次にまた向こうに行ったときに、日本で何勝のムトウだと言ってもらえるように」。
次の遠征までに可能なだけ勝ち星を重ね、また胸を張って世界に出て行きたいのだ。
そのためにも「まだまだ。これで満足してちゃダメ。藤田さんも、谷口さんも頑張ってくれているのに、僕ら世代に元気がない。頑張らないと」。
34歳には反省しきりのツアー通算5勝目になった。ここ関西での1勝を、世界へと羽ばたく糧とする。