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東建ホームメイトカップ 2014
宮里優作が開幕V、年をまたいで国内2連勝【インタビュー動画】
2勝目こそ難しいと言われる勝負の世界。初Vには11年もかかった男が、照れ笑いで「こんなにあっさり勝ってもいいのかな?」。悲願成就に家族と泣き崩れた1勝目。この日は満面笑顔で抱き合った。昨年は、ファイナルQTの会場にいて、弟の勇姿を見届けられなかった兄・聖志。2度目はしっかりとその目に焼き付け、「今日、優作は完成されたゴルフをした」。
1打差の2位タイからスタートした最終日は、1番の約10メートルを皮切りに、序盤でいきなり5連続バーディに、かたわらでひそかに舌を巻いたのは、専属キャディの杉澤伸章さん。
「ゲームがすごく上手くなったと感じた」という。
自身の連続バーディ記録の更新がかかった6番ホールは3メートルのチャンスを惜しくも外して、杉澤さんはそっと横目で伺った。「次の7番のティショット。どうやって打つんだろう?」。
表情ひとつ変えずに優作は、先のパットのミスもなかったように、「アゲンストの中で、さらっと、こすったようなスライスを打った」と、杉澤さんは感心しきり。「ああいうのを僕らは“逃げ球”って言うんですけど捕まりすぎない、逃げるような球」。安全に、冷静に、フェアウェイ右サイドを捉えたマネジメントに「優作は、本当に強くなった」と、杉澤さんも思わずうなった。
「去年1勝して不安要素がひとつ減ったので」と優作は言う。吹っ切れたことで、元来の潜在能力も伸びやかに出せるようになり、ゲームそのものに集中できるようになった。「いろんな局面で、自分の持ち味を発揮出来ること」。それを優作は「ゴルフ力」と称した。「ここ3年はスイングを変えず、それよりも“ゴルフ力”を上げていく取り組み。それが形になってきたと思います」。
数年前まで、家族さえ呆れるほどの完璧主義者が今や「ゴルフに完璧はないので」とさえ口にするように。「年齢を重ねていって、これくらいでいいじゃないか、と」。カラカラと笑えるようになった。ミスをしても、「その中で、いかに自分の良さを出していけるか」と思えるようになった。
勝てなかった11年間で、もがき苦しみながら導き出した勝つための極意。「あの11年間があって、その経験がこの2勝につながったと思う。だから2勝目も、簡単に勝てたわけじゃない」。もともと、その要素を持つ選手がようやく突破口を見つけられたというだけだ。
この正月は地元沖縄で親戚中が集まって、「僕の初優勝を肴にみんなで美味しいお酒を飲んだ」という。そのときの父母の本当に嬉しそうな顔。「僕のことで色々と言われたり、父と母は本当に大変だったと思う。心配をかけたので。優勝して両親の顔が変わったのが何より良かった」。
家族の分まで背負ってきた肩の荷を下ろして迎えたこの開幕戦は、昨年の3月に新居を構えた名古屋市内からの自宅通勤。試合中も、息子の夜泣きにいちいち自分も付き合い、妻の寝不足をねぎらう優しい夫だ。それと、朝は5歳になる萊杏(らん)ちゃんを“ママチャリ”で幼稚園まで送っていくマイホームパパ。「・・・それは内緒にしておいて欲しかったのに!!」。
ゴルフ、ゴルフと煮詰まらずに一度リセットして家を出られる。いざコースに来れば、週末は特に家族の声援を受けて、「子どもの前で、下手は出来ない」と、厳しいプロの顔になりきる。そのメリハリも戦う上でのプラスに。
「1勝しても、主人は私たちの前では何も変わりませんでしたけれど」とは妻の紗千恵さんだ。
元来の優等生ぶりも、謙虚さも相変わらずで前日の3日目には「もしも、僕が勝てば大穴」と、笑っていた。「まさか開幕戦で、自分が勝てるとは思っていない」と勝ってなお、謙遜した。1メートルのウィニングパットも「最後は3打差もあるのに手が痺れまくって動かなかった。まだまだ伸びしろがありますね」と、苦笑した。
昨年の弟の初優勝時には、「1回勝てば、10回勝てる」とさらに背中を押してくれた兄。さっそく開幕早々に、勝ち星を重ねたことで「この調子なら、賞金王も狙っていける」と、聖志に言われて「ぜんぜん、僕なんかまだまだ」と、首をブンブン横に振る。それでも、「開幕で勝てたのは良いステップ。すごい助走だと思うので。これからの楽しみが、また増えたかな?」。スタートダッシュに成功した優作はぐんぐんと加速して、これからもっと強くなる。