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ゴルフ日本シリーズJTカップ 2016

池田勇太は勝って、決められなかった

今季3勝のうち2勝を支えた坂井恵キャディ。最終戦で勝てずに、「勝利の女神じゃない」。この選手にしてこのキャディあり
今年6度目の2位に終わった賞金王は、18番グリーンを不満そうに下りてきた。「うちのジイさんが、言いましたよ。“2位もビリも一緒。優勝しなきゃ意味がない”」。昨年5月に天国に逝った祖父の直芳さん。育ての親でもある。
「プロは、勝ってなんぼだと。俺はそういう風に、教えられてきた」。今も、底抜けの上昇志向の源である。

墓前の声を、想像してみた。「喜んでくれるとは思います」。しかし、それもきっと「一瞬」。祖父こだわりの勝負には、敗れた。「この日本シリーズに、負けたことにはぶつくさ言うと思います」。

本人も悔いでいっぱいだ。目標は、あくまでも最多勝利で賞金王。悲願達成も、1打差で迎えた最終ホールでみすみす逃した。
東京よみうり、魔の18番。恐怖のパー3。
ピン左5メートルに乗せた。
「上って、途中からスライスする。ラインは読めていた」。
入れて、朴に並ぶ。
「打たなきゃ勝てないのはわかってる。だけど、3パットもしたくない。あのグリーンには、怖さがある。ラインは間違っていなかった。打てたけど、カップには届かなかった」。
獲得賞金で、自身初の2億円越えでも最多の4勝には届かなかった。
「賞金王は、1年頑張って来たことの積み重ね」。
プロ10年目の30歳。「やっと、獲れた」。しかし、最後の最後もまた2位に終わった。
「2位が6回あっても嬉しくない。だったら優勝3回にしてくれよって」。
自身最初の賞金王も、この選手にかかればまるで寿司屋の品書きみたい。
「中の上(ちゅうのじょう)くらいでしょう。100点満点にはほど遠い」。

今季3勝のうち、2勝を担いだ坂井恵キャディも苦笑いで「おめでたくはない。賞金王より今週、勝ちたかったから。勝利の女神じゃない。今日、勝てなかったから」。
駆けつけた仲間も仲間で、本人たちの歯がゆさを知っているからどこかぎこちなく、祝福の輪に加わった。
感謝してもしたりないほどこの1年を、支えてくれた人たちを気まずくさせて謝った。
賞金王になれても「みんな勝って、獲る気持ちでいたのでつらい気持ち」と、頭を下げた。

ジイちゃんが生きてたら、なんと言ったか。「良くやった、の一言は欲しいですよね」。
ジイちゃんに褒められたくて今までずっと頑張ってきた。
「でもきっと、また厳しい言葉が返ってくると思います」。
独り立ちした孫はもう、ジイちゃんに言われなくてもわかっている。
「良くやった、と自分で思ったらそこで終わり」。
来年4月には、マスターズから招待状も届くだろう。
日本ツアーもまた来年1月に、シンガポールから始まる。
「もう今からオフシーズンをどういう形で準備するか、しっかり段取りを決めてやっていかなくてはいけない」。
余韻に浸る暇はない。
「来年こそ勝利数を上げて、最多勝を獲って、今度はぶっちぎりで賞金王になることが、俺の中での上の上(じょうのじょう)」。
特上(とくじょう)獲りの挑戦は、まだまだ道なかばだ。

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