Tournament article

長嶋茂雄 INVITATIONALセガサミーカップ 2016

ミスターに力をもらった!! 谷原秀人がツアー通算12勝目

勝利を決定づけた14番のバーディは「長嶋さんからパワーをもらった」と、谷原が表彰式で打ち明けた際のミスターのこの表情・・・!
公約どおりに逃げ切った。谷原がやっと今季の初優勝を飾った。ツアー通算12勝目は亡き父に、ようやくもっとも新しい勝利で報いた。ミスターの期待にも応えた。

18番でパーセーブのボールを、なぜか後輩の藤本佳則に渡して、そのウィニングボールをこれまたなぜか、藤本が観客席に投げ込むという、それもまた面倒見の良い“タニさん”らしいVシーンに「2万円が、3000万円に化けた」と、喜んだ。

4打差の首位で出た最終日は「ヘタすぎて、疲れました」と、昨日までとは真逆の風に「アジャスト出来なかった」と翻弄されて、タイのクロンパに1打差に迫られた。大ピンチこそ、「強く思った」と、何より頼りにしたのは最終日に単独首位に立てば負け知らずという自らの過去のデータだ。

「今日も負けない」とこの日も漠然と「追いつかれたら、追いつかれたでそこからまた頑張ろう」と平然と、14番では「ミスターにパワーを頂きました!」。カートで駆けつけた長嶋茂雄・大会名誉会長。「応援に来たよ!」と手を振るその笑顔を確認するなり、ピンそばのバーディで魅せた。クロンパを突き放して「みんな僕に合わせて遠慮してくれる。みんな優しいですね」とおどけたが、どんな状況でも揺るぎない不動心こそ、何よりの強みである。

どんなに接戦でも、自らに課しているのが「今日1日の自分のゴルフをどうするか」ということ。「それが、4日目であろうが3日目であろうが1日1日、1打1打ゴルフをする。相手に左右されたら話しにならない。ゴルフは自分との闘いです」。

そして、今週の勝因はなんといっても「安楽さん」だ。先週のホスト試合は、いくら全米オープン帰りとはいえ、絶対に予選落ちなどしてはいけなかった。会場のオークモントGCは15フィートを越える超高速グリーンにやられたなどと、先週の「ISPSハンダグローバルカップ」はしかも、2年連続で決勝ラウンドに進めなかった言い訳を、するしかなかった自分が不甲斐なかった。

何かこの突破口をと探していて見つけたのが、ドライビング王の安楽拓也プロのDVDだった。アマゾンで2万円で注文した7枚組は、うち2枚を見終わり今週はレッスンビデオの中でも「テイクバックからダウンスイングの体重移動と、上半身の力感」と、この2点に特化して、コースに向き合い奏功した。

前夜はずっと迷っていた安楽さんのフェイスブックの友達申請ボタンをついに「ポチッと押した」。さっそく届いた承認のメッセージ。
「ドラコンと、ゴルフをつなげてくれてありがとう」。
「レッスンして下さい!」と、好機を逃さず返信した。
「僕で良ければ!」。

シメシメの谷原。「まだ見ていないDVDが5枚も残っているのに、安楽さんにも教えてもらえる。伸びしろが、まだ残ってる」。
まだ3000万円差ほどあるが、これで賞金ランクは2位に浮上。「どうやって、庚泰 (キョンテ)に追いつこうかと考えている」と長年、悲願の賞金王獲りの秘策も、安楽さんのレッスン次第になるかもしれない。

予選さえ通過をすれば、すべてトップ10入りと絶好調の今季。土壇場の劇的イーグルで一度は首位を捕らえながら、またもやメジャー制覇を逃したのは6月の「日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ Shishido Hills」だ。
「何やってんだ、あいつ、と。つまんねーな、と。そういう気持ちは自分もギャラリーのみなさんと一緒だった。やってる自分が一番悔しかった」と、次週の日本プロはやはり5年シードの国内メジャーでリベンジに挑むつもり。

5月末には1週間でいっぺんに2つのメジャー切符を獲得して、全米オープンには初めて母親を現地に誘った。「生きている間に、何でもやってあげないとダメだ、と。オヤジが教えてくれたこと」。
今年2月に、急逝した父・直人さん。たまに口をきけば「あのときのあのショットは何だ」とか、そのくらいで年中無休で料理店を切り盛りしていた父とじっくりと将来について、話し合ったこともなかった。亡くしてからの初Vも「良い報告が出来る」とはいえ、墓前に立っても返事はない。
「このあと、全英オープンや、全米プロもたぶん出られる。1年に3つのメジャーに出られるなんて、今までになかったから。これからもどこへでも連れていってあげたい」。せめてこれからは、父に代わって懸命に店を守る母に精一杯の孝行もするつもり。

直々の優勝カップも、ミスターには申し訳ないのだが、地元広島出身の37歳は根っからのカープファン。「セカンドのボールも拾いに行かれたとか」。長嶋氏の数々の武勇伝には感動こそすれ「僕はやっぱり衣笠さんとか、そういうほうに目が行っちゃって」と恐縮しきりで、「昨日はDeNAに負けて、自分も負けたらどうするんだ」と、決戦前夜は嫌な予感もちょっぴりよぎったものだ。
それほどの熱狂ぶりに「カープが勝てば、気合いが入る。僕のゴルフもカープ次第」。
目下、ひいきの球団が、首位を走り続ける限りは今季の谷原も安泰か。

関連記事