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RIZAP KBCオーガスタゴルフトーナメント 2017
池田勇太が大会3勝目で賞金王獲りを宣言
安定したショットでじりじりと追い詰めた。いくつかのピンチも盤石のパーセーブでじわじわと差をつけた。14番で、上井のボギーを誘うと1打リードのまま迎えた18番のティショットは会心のフェアウェイど真ん中。
「俺が先に、あのショットを打っちゃったら後の上井さんはきっと、どうしたらいいか分かんなくなっちゃう」。
想像したとおりに上井のティショットは右のグラスバンカーに飛び込んだ。
「申し訳ないけど。そこでもう、勝ったと思っちゃった」と青木功に並ぶ大会3勝目は、結局3差の貫禄勝ちだった。
芥屋で3度目の会見を受ける前に、グビッとビールをひっかけた。
日曜は休業する店が多い地元有数の繁華街も、祝勝パーティと称してこの日は臨時営業してもらおうか。
夜の“中州”も込みで「福岡が大好きなんです」。
開催コースも大好きだ。特に今年の芥屋は、グリーンキーパーのアンドリューさんはじめ、スタッフのご尽力が例年以上に見て取れた。
ツアーで唯一のコウライグリーンは「目も詰まっていて、それでいて硬さもあって、速い」と選手の技量を引き出すのに申し分ない舞台は今季、世界ランクの資格を駆使して序盤から居座った米ツアーと比べても、なんの遜色もない仕上がりに、初日から腕が鳴った。
初日から気分もアガった。今年記念の45回大会は、スタートの選手紹介で、主催者が好きな曲をかけてくれるという。
愛してやまない昭和の刑事ドラマの中でも大会の中継局にも配慮して、池田が選局したのは“西部警察のテーマ”。
「渡さんが好き。DVDも、全部持ってる」。
勇壮で、胸のすく楽曲を聞きながらコースに出ていく気分は最高だった。
その道連れに、勤めてまだ4年の芥屋のハウスキャディを指名したのは完璧なコース攻略を期待したからではなかった。
「面白かったよ。キャディなのに、半分しかラインが合ってないんだから!」とそんな未熟さを、補ってあまりある。
まだ21歳の山崎ありささんの熱意。
「キャディとして成長したいという思い。俺の役に立ちたいという気持ち。伝わってきた。それに答えたいと思った」と、池田自身も表彰式後に人が引けた18番で、この日のあまりの暑さにフラフラと倒れ込んだ。灼熱の芥屋を、けなげに歩く山崎さんの背中をときおり押してやりながら、目標に向かって共に歩いていく行程は、楽しくて仕方なかった。
「ハウスキャディで勝ったのは初めて」と、その点でも嬉しい今季初Vだが「自分としては、1勝しただけでは、まだなんとも思わない。自分としては、今年が始まったばっかりというか、まだ始まってもいない。さあこれからだぞ、見てろよ、と」。
昨年まで越せなかった芥屋のバンカーを、今年はティショットでいくつも越した。
このオフ、鍛えに鍛えた体で格段に飛距離は伸びた。
初春は渡米前の確かな手応えも、しかし米ツアーでは結果を残せず、メジャーは4戦とも予選落ち。
「悔いが残るどころか、これまでは最悪のシーズン」と今月、傷心の帰国直後は「ゴルフをやりたくないな、という先週も、そんな気持ちはどこへやら。もう一度頑張る力をこの福岡でもらった」。
この1勝で、あっという間に賞金王のプライドも取り戻した。
歴代5位となる、9年連続の優勝にも「年間複数回勝って当たり前。周りも、自分もそう思っている」と、真骨頂はこれから。
ここからシーズン最終戦まで15連戦となる初戦を制して賞金ランクは47位から、15位に浮上。
「これから秋の陣、これからが俺のスタート。もう一度花咲かせられるように頑張る」。
目下、1位のチャン・キムとは、5000万円差もいとわず「ここから一気に頂点にいきますよ」。
最終ホールのバーディで、ギャラリーのみなさんにボールを贈るファンサービスも、なんと優勝スピーチも一緒に。
本当に最後の最後まで貫いた山崎キャディとの共同作業で、2年連続の賞金王獲りを宣言した。