06年のプロ入りから苦節12年。H・W・リューに6&5の圧勝を飾った木下裕太には、こみ上げてくるものがあった。
4回戦突破の賞金は、750万円。
現在、約600万円で63位につける賞金ランキングも、これで1300万円以上の大台に乗ることは、確実となった。
「今日勝てれば初シードが･･･、僕にとって初めてのシードが･･･」と、そこまで言いかけて言葉が出なくなった。
潤んだ涙に目頭を押さえた。
口元を振るわせながら「初シードがじわじわと、見えてきたので」。
32歳が感泣のベスト8進出を果たした。

名門・日大を3年で中退してプロ入り。デビューして2年目の09年にチャレンジツアー（現AbemaTVツアー）「トーシンチャレンジ」で優勝。
しかし、その後は再三のQT挑戦もファイナルの決勝には進めず「チャレンジ一筋。ツアーにも出られずお金もなくて、稼がなきゃと思うと余計にうまくいかない。そういう生活が6、7年続いた」という。

転機が訪れたのは一昨年、自身8回目のQT挑戦時だ。翌年の出場権が得られるのは同35位内。「今年、入れなければもうやめてやる、と。半分ヤケっぱちだった」。
良い意味の開き直りが生まれた。
「それまでは、チャレンジには出られていると満足しちゃってる感じもあった。凄いビビりなので。常に逃げ回っている感じがあったが、自分を追い込んだら上手くいった」とファイナルQT16位の資格で初の本格参戦を果たしたのは昨年。
ツアーの出番を増やすにつれて、徐々に自信もつきだした。今年は8月の「RIZAP KBCオーガスタ」で自己ベストの7位を契機に、すぐに今大会に照準を合わせた。

来季から規程が改訂されて、賞金シードは上位65人とボーダーラインが上がる。それだけに「1試合も無駄にはできない。ここで2回は勝ちたい、と」。
あえて自分にプレッシャーをかけて挑んだ。
稲森佑貴を5&3で倒した前日の3回戦。
圧勝にも奢らず再調整を重ねて、迎えたこの日の4回戦は「5バーディ、ノーボギーのゴルフで負けたら仕方ない」。
H・W・リュー相手に早々の5アップも「この選手のレベルならいつ、5連続バーディで食われるか分からない。終わるまで安心しない。常に気を張り巡らしてやった」と最後の13番ホールも強気に、チップインのバーディで勝負を決した。

総勢104人で争うマッチプレーランキングは、85位から8強に潜り込んだ伏兵だ。
「このメンツに自分がいていいのかな･･･？」。
戸惑いは、翌7日の準々決勝でぶつかる相手に増すばかりだ。
池田勇太は、わずか1歳上でも「あこがれの大先輩」。小学時代に、地元千葉県の北谷津ゴルフガーデンで出会ってから「この人だけには、生涯敵わないだろうと」。
ずっと目標の人だった。
「胸を借りてやります」。
同じ名前で紛らわしいと、当時練習場で木下についたあだ名が“ちびユータ”。
池田も、木下の快挙を喜び「子どものころから一緒にやってきた。またこういう舞台で戦えるのは凄いことだと思うし、明日楽しみ」。
夢の“ユータ”対決を制すれば、やぐらの頂上はもうすぐそこ。泣くにはまだ早い。

• Ｈ・Ｗ・リュー
• 木下 裕太
• 稲森 佑貴