大槻智春が、石川遼との一騎打ちを強烈な一撃で決着させた。
戦いに戻ったプレーオフの18番ホール。
石川が先に3メートルにつけたのを見て放った131ヤードの2打目はピン奥約1メートルで「バンッ」と、派手な音を立てると、きゅきゅっと戻ってズバン、とカップイン。
「僕の中でベタピンのパットで優勝、というのはある程度イメージは出来たがなかなかセカンドショットが入ってというのはない」。
待ち焦がれた2勝目は、パー4でのイーグルという、思ってもない衝撃の勝ち方。
あれほど鮮やかに斬っていながら、大槻はなお考えた。
「勝てない理由と、勝てた理由。未だにわかりません。なぜ勝てたか」。
2019年の「関西オープン」でツアー初優勝を飾ってから3年。なかなか破れなかった2勝目の壁。
昨年の本大会も、単独首位で最終日を出ながらビンセントに敗れて2位だった。
今季だけでも2位が3回。
「毎週毎週、ずっと悩んでました。なぜ勝てないか」。
混迷を極めたのは5月。
「ゴルフパートナー PRO-AMトーナメント」で、2年連続のプレーオフ負けをした。
「あと、(8月の)セガサミーカップもそうでした。獲っておけば流れが変わったな、というのを獲れずに凄い反省をした」。
先週は、睡眠1時間でラウンドしたことも。
「技術とか、そういう面で聞いたりはありますけど、自分もプロとしてやっていて、勝ち方教えてください、というのもばかみたいですし…」と、抱え込む日々。
池田勇太に5差からスタートした最終日は「正直、勝ちに行ける試合ではない」。
淡々と、6つバーディを重ねたら、ふいにチャンスが開けた。
「一番緊張した」という17番の第4打はグリーンの外から冷静に、安全策のパターを握ってパーセーブができた。
ボギーなしの「66」で上がると、突如、勝利は舞い降りた。
プレーオフの衝撃決着に、慌てて駆けつけた日大後輩の堀川未来夢に「向こうで待っていたのに。早すぎますよ!」と、文句を言われて苦笑いで水をかぶった。
「ガムシャラにやったのでわからない。勝ち方についてはいちばん悩んでいるところ。難しい」と、けっきょく勝因は解けなかった。
勝った直後に考えたのも敗者の気持ち。
石川遼は、一つ下だが「アプローチの打ち方が多彩で、小さい時から小技が凄い。いまは、なおさら僕が遼を評価することなどできないほど凄い選手と思っています」と、ジュニア期から畏怖する存在だ。
「僕のセカンドが入って決着がつきましたけど、遼もチャンスにつけていた。悔しくないわけがない。悔しいはずですが、それでも本当に素直におめでとう、と言ってくれて。自分だったらできるかな……と、いま思っています。人としても尊敬してます」と、V会見でもとことん考える人だった。
待望の2勝目で、賞金ランクは2位浮上。
賞金王の可能性や、目標の欧州ツアー挑戦のタイミングなど勝てば今度は贅沢な悩みも増えていく。
結った団子を解くといい感じにウェーブがかった長髪は、日大先輩の矢野東に「垢抜けたね」と、褒められ切るに切れなくなった。
「これで満足することなく、またすぐ3勝目ができるように」。
32歳の考えるサムライは、次の勝利に向かってこれからも熟考を続ける。