あれから1ヶ月も満たない今週。
アマとして大会最少スコアとなる「64」で初日を回り、暫定の単独首位発進した蟬川さんは、「同じ名前の“タイガ”にも負けたくないですけど、誰にも負けたくない」。
底抜けの負けん気は、どんな戦略にも勝る。
この日は9ホールのティショットでフェアウェイウッドやアイアンを持ったが、安全策というより左右に曲がるホールで飛びすぎを懸念しただけ。
「こんなに良いスコアで回れるとは思っていなかったけど、難しいコースでも果敢に攻めて、自分らしさを貫いた結果。貯金ができた」と、7バーディを積み上げ戻った。
この日、ラフに入れたのは5番だけだった。
どんなに強振しても、まっすぐ遠くに飛ばせるのは、「フィニッシュまで振り切っても左に行かないドライバーを投入しているから。クラブにも秘密があります」と、自信もたっぷり。
プロばりの強心臓は豪打時のみならず、うねる高速グリーン上でも発揮される。
奥からのパットはプロすら恐れをなす速さだが、16番では4メートルのスネークラインや4番の1メートル半、また最後9番でもスライス→フックと、上から4メートルの複雑怪奇も読み切った。
後半2番では、斜面のラフから56度で打った3打目がピンにくっつくなど高難度の小技も難なくチャンスにするなど今月、世界アマランク1位に就いたばかりの成長には目を見張るばかりだ。
大会初出場を果たした2020年は、1打足りずに61位で予選敗退した。
2度目の昨年は、プロの試合で6年ぶりという決勝進出だったが「予選通過したいっていうゴルフと、今年は冗談抜きで勝ちに行くゴルフ。心境的にもまったく違うのかな」と、率直に明かす。
気持ちの劇的な変化は、今年6月にABEMAツアー史上5人目(現在は7人)のアマ優勝を飾った「ジャパンクリエイトチャレンジ in 福岡雷山」が契機だそうだ。
「ちょっと前の僕だったら打つ前に恐怖心が芽生えていたけど、今は成功体験をもってどの試合でも、勝つイメージで出来るようになった」と、心意気はゴルファー日本一の大舞台でも変わらない。
「トップ10狙いとかいう人もいると思いますが、やるからには負けたくない、という気持ちが僕は人一倍強い」。
アマで大会を制したのは、まだ第1回(1927年)の赤星六郎氏だけ。プロの試合で史上初となるアマ2勝は、日本のゴルフ史もきっと大きく変える。