前半4番で連続ボギーが先行したが、むしろ自打球からのピンチを危うく逃れてのもの。
右の赤杭エリアの側溝に敷かれた金網の上から打った2打目は格子で弾かれ、自分の内ももにあたって左後方に飛んだ。
旧ルールは2罰打だったが競技委員に新ルールを確認し、第3打は無罰で打てた。
奥に飛び、寄せきれずに5メートルも残ったが、きわどいスライスラインは読み切った。
「みんながダボだろう、というところで腐った球を打たないように。ここでよいパットが打てたので。きょう1日の流れにつながった」と、本人は満足そうだったがあさイチの新幹線で応援に駆け付けた妻の志保さんには、気が気でない。
「ときどき、目をそむけたくなりますこともあります」と、苦笑する。
でも「それが彼のゴルフであり、彼にしかできないこと」と、同時にワクワクさせられる。
8番のパー4で豪快にワンオンバーディを獲って沸かせたと思ったら、直後の9番では左隣の1番ホールに打ち込みまたヒヤヒヤさせられた。
ワンオン狙いの16番で、この日2度目の連続バーディを記録し、3差のリードを保って、因縁の最終ホールに入った。
18番は、幡地も「昨日の悪いイメージが残る」と自覚するいわくのホール。
前日3日目に、ティショットを派手に曲げ、右林のクリークに打ち込みながら、奇跡的なパーセーブでしのいだ場面を志保さんも、きのうはALBA TVの生中継で見ていた。
さすがに「きょうは3番アイアンで打つ」と、安全策を決めていたようだ。
だが夫は直前に豹変。
「ドライバーを振り切ってやろう」と強振し、いつもの豪打でフェアウェイ真ん中を捉えてどや顔。
422ヤードのパー4で、54度を握った2打目は、ピンまで101ヤードしか残ってなかった。
「一番プレッシャーがかかる場面で、この日唯一気持ちよく振り切れた。やっと満足のいく勝ち方ができました」と悦に入り、泣いている妻を見て、「なんでまた泣いてるの」と笑っていた。
今年3月に、幡地が人生初Vを飾った「ニュージーランドオープン」でも現地でうれし泣きをしてしまったそうだが、「彼の主戦場は日本なので。やっぱり日本での初優勝はよりおめでとう、という気持ちです」と、志保さん。
年下夫と2021年11月11日に結婚した頃は「私が練習しなさい、とか言って、怒ってばかりでした」と明かす。
翌年に挑戦した米二部ツアーの予選会でも英語が堪能な志保さんに頼り切りだったが「去年くらいから、練習しなきゃから、練習したい、へ。自分から目的を持ち、彼は変わった」。
契機のひとつが昨年4位に入った「ダンロップフェニックス」だ。
3日目にケプカと回り、「元世界一の選手を見て衝撃を受けた」と幡地はいう。
「ゴルフを始めたての子が初めてプロゴルファーに触れたときみたい。何かよくわからないものがいきなり出て来たときの好奇心。全ショットを目に焼き付けました。日本ツアーでは絶対に味わえない技術を目の当たりして向上心に火がついた」。
自身も20-21年にチャン・キムを抑えて飛距離1位に輝き「異次元」とも言われたが、その比でなかった。
「そこまで自分と違うと感じたのは初めて。ようやく近づきたいと思う選手が目の前に現れた。何をどうやったらあれができるか。今までのやり方ではそこにたどり着けない」。
趣味だったカードゲームの時間も惜しんで練習に没頭するようになっていた。
この日も、V後の会見で「ほんとは今から練習したい」とうずうずするのは、翌20日に出る全米オープンの予選会(滋賀県・日野GC)と、さらに翌週の「ミズノオープン」では全英オープンの出場権もかかっているから。
「以前の僕であれば、きょう勝ったから満足して、もういいや、と思ったかもしれない。でも今は、両方ものにしたいな、という欲がある」。
ケプカみたいな怪物揃いのメジャー舞台へ。
でも、「彼のゴルフも普通じゃないですよね」と、笑う志保さん。「これからも彼がやりたい場所で、やりたいことを思い切りやってくれたらいいな、と思います」。これからも、共にハラハラドキドキする。
*当初、プレーの打数に誤りがございました。お詫びして修正します。申し訳ありませんでした