緊張さめやらぬ表彰式で、世界有数のメガバンク「ハナ銀行」の顔認証システムに向かって笑顔を向けると一瞬で入金完了。
「大きい金額なので。今まで応援してくださった方々に感謝の気持ちを伝えたい。後輩とごはんに行ったりしたいし、何か買い物もしたいです」と、喜びもひとしおだ。
「ツアー初優勝を韓国で達成できたのはすごく嬉しいですし、自信になります」。
小木曽喬(おぎそ・たかし)は、10年かかったプロ初勝利をアウェイで噛み締めた。
3日目に、同組で回ったドンファン選手は、韓国勢として初の「日本アマ(2004年)」覇者で、日本ツアーは2006年から2016年にかけて参戦し、通算2勝を飾った伝説の選手だ。
「ジュニアのときに、サインをもらったことがあるんです。そういう選手と回れたことが、すごく嬉しかった」と、気持ちを高めて今年“3度目の正直”に挑戦。
最終日を首位で出たのは今年3回目だったが、4月の地元開催「中日クラウンズ」では3位で負け、その後3戦連続で予選敗退し、先週のJGTO主催「BMW日本ゴルフツアー選手権森ビルカップ」では12位敗退していた。
負けるたび、3年前から師事する堀尾コーチとスイングを見直して反省し、メンタルを見つめなおして挑み続けた。
「今日は、メリハリがちゃんとできたことが優勝に繋がったと思います」と、時間をかけたからこそ感慨深い。
この日は、破竹の韓国勢になんども並ばれた。
でも、一度も首位は譲らず、都度突き放し、最後の最後にまた追いつかれても、18番のティショットはひるまずフェアウェイど真ん中。
2打目も絶好の花道まで運び、3打目のアプローチも「今後プロ人生を続けるうえで、思い出に残るもの」と、冷静だった。
安全に寄せきったとき、「ちょっと泣きそうになった」と、こぼれかけた涙も、待ち構えた仲間たちの水シャワーでかき消えた。
「日本の選手たちが待っていてくれたのは嬉しかった」。
アウェイで10年目につかんだ初勝利はまた格別だ。
この1勝で、韓国ツアーのシード権も獲得し、行使するかと表彰式で問われて「もちろん、参加させてもらいたい」と、即答。
年々、規模を増す同ツアーの評判は、日本で戦う韓国選手たちから聞いている。
「今回の優勝で、海外にも出ていきたい、と改めて思ったので。参加させてもらえるように頑張りたい」。
初勝利の壁を破ると一気に扉が開けた。