Tournament article
ブリヂストンオープン 2000
「佐藤さんの武器は、大曲りがないこと」
佐藤は、今季ここまで部門別ランキングのパーオン率68,79%、パーキープ率86,28 %でトップ。抜群の安定感を誇っている。
その数字の陰には2年間、佐藤を見てきたコーチの井上透さんがいる。
井上さんと佐藤の出会いは、奇しくも2年前の袖ヶ浦。ツアー2勝目をあげたこの大会でのことだった。
「たまたま練習ラウンドで佐藤さんのスイングを初めて見たんですが、あのときは強烈なフックばっかり打っていて、まさか、試合で勝てるようなスイングはしていませんでした。それでもパットを入れまくって勝って、佐藤さんは『僕にはパットだけしかない。不安なんです』と相談してくれた。その翌年、1月から正式に佐藤さんと契約を結んだんです」
あれから2年。より良いスイングプレーンを目指し、井上さんと佐藤の共同作業で、長い時間をかけてスイング改造に取り組んできた。その成果を、袖ヶ浦での2度目の優勝で証明したことで井上さんは「佐藤さんと初めて会った大会で2勝目…なんだか不思議な気持ちです。非常に感慨深いものがありますね」
井上さんによれば、現在の佐藤の武器は「ショットに大曲りがないこと」だという。
「ミスしない人間はいません。ゴルフは、そのミスを、いかに最小限にとどめるかが問われるスポーツともいえると思います。だからこそ『うわ、やばいミスった!』というときに、どれだけ曲がりを少なくするかが勝負だと思うのです。
今の佐藤さんは、他の選手ならば林まで打ちこんでしまうようなミスショットをしても、その曲がり幅が、人よりずっと小さいんです。どんなに悪くても、80点台にとどめたショットが、ずっと打ち続けられる選手なんですね。
だから本人が何かフィーリングが悪くて『今日は調子が悪い』ってコメントしていたとしても、そのコメントとは裏腹に、スコアは組みたてられているという強みがある。
ミスしても高い確率でグリーンの乗せられて、得意のパターにつなげられる。“曲がり幅が少ない”という積み重ねが、最後には他の選手との大きな違いになって、パーオン率だとかパーキープ率などの数字に現われてくるんだと思うんです」
今週、ショットに不安を抱えていた佐藤は、前日3日目に「フィニッシュを意識することで比較的バランスのいいスイングができる」ことを発見。最終日にコースにかけつけた井上透コーチとその点について、スタート前にもういちど練習場で話し合い、「今日もとにかく、フィニッシュをしっかり取ることを心がけよう」と決めた。
「もし朝、状態が悪ければ何か新しいことを提案しようと思っていたのですが、練習場で振っているのを見たらかなり今日はトーナメントとして良い戦いができると思ったので、あれて何も言わず、昨日の感じのまま、リラックスしていきましょう、と話したんです。
これまでも、佐藤選手の調子はそんなに悪いわけではなかったんです。ただ、やはり選手はコースに出るといろんな怖さが出てきます。ゴルフは意外とまったく無心で球を打てない。というか無心だとかえって怖さが入って来たりする。でも何かテーマを持ってコースに出れば、逆にスイングのときにプレッシャーがかからなかったりするものなんです。
もちろん、これまでだって、佐藤さんはフィニッシュをちゃんと取ってはいたでしょう。でも『取っていた』と『取る意識を持つ』とでは、スイングのバランスが違ってくるし、フィニッシュを取るというのは当たり前のことですけど、当たり前のことを当たり前のように意識してやるっていうのは、けっして悪いことじゃないんですね」(井上さん)。
今季の好調は、井上さんと佐藤が2人で築いた努力のたまもの。しかし、「まだまだ課題は残る」と井上さんは言う。
「17番のティショット。あれがあって展開はドラマチックになったわけだけれど、コーチとしては、ああいう大事な勝負どころであんなショットをしているうちはまだまだ、と気持ちが引き締まりますね」
井上コーチと佐藤との二人三脚はこれからも続く