Tournament article
フジサンケイクラシック 2000
「ショットは完璧だった。しかしパットはスタートから、手が震えていた。完全なイップスだよ」
そこからの第2打。尾崎は9番で打つか、それともピッチングか。ひとしきり迷った。
「9番で打っても、間違いなくピン奥5メートルにいっただろう。とにかく、僕はどんなに(距離が)あっても2回で入れられるところに乗せて、パーで上がらなくてはいけなかったから」(尾崎)。
迷ったあげく、ウェッジを選んで打った第2打は、ピン奥5メートルに、トンと落ちると、5センチほど小さくバウンドしただけで、そこからピクリとも動かなかった。計算どおりだった。
グリーンが硬く、球を止めるのが難しいとされる川奈。「ショットだけなら、川奈を制することができたかな」という尾崎の言葉を、裏付けるファインショットだった。
そしてグリーン上。ファーストパットを見送る尾崎の目が、次第に見開かれていく。球がカップ横10センチに止まったのを見届けると、尾崎は大きな万歳を幾度も繰り返した。
「今日は、スタートから手が動かなかった。長いこと苦しんできた。イップスだよ。バックスイングで手が動かなかった。でも、バーディパットがぴったりカップのふちで止まったのを見て、自分でもものすごくビックリした」
優勝インタビューでは「イップスを克服した人間は、まだ世界にひとりもいないらしい。オレが世界初になれるかな。いや…まだまだこれからが大変なんだね」と、ひとりごとのようにつぶやくと、尾崎はやけに遠い目をした。