Tournament article
三井住友VISA太平洋マスターズ 2002
「ここでトライしなければ、きっと後悔する」
中嶋と、1打差で迎えた、18番パー5。
残り267ヤード。右ラフからの、池越えの第2打。
スプーンから放たれたボールは、一滴のしずくを跳ね上げ、池に沈んだが、だがその瞬間にも、田中の表情は、ピクリとも動かない。
ギャラリーの大きな悲鳴も聞こえなかったかのように、淡々と、グリーンへ向かって、歩を進めた。
「完璧の、さらにひとつ上のショットが打てなれければ乗らない、とわかっていて打った」(田中)
リスクの大きさは、重々、承知の上だった。
何も無理して2オンを狙わずとも、刻んで3打目勝負に出る道もある、ということは、もちろん分かっていた。
キャディのディーン・ハーデンさんにも、「危険すぎる」と、止められた。
「ギャラリーのみなさんには『若い選択だ』と言われるだろう、テレビで見ている親父にも“なんで、狙うんだ”って怒られる、とは思ったけど…」
それでも、田中はチャレンジしたかったのだ。
「ここで刻んだら、初めからプレーオフ狙い。…そういうふうに見られるのがいやだった。
中嶋さんには、“それを入れられたら終わりじゃないか”、そう思ってもらえるようなベタピンショットを、打ちたかった。
ここでトライしなければ、最初から、自分はそういうショットが打てない、と認めたことになる。
ここでグリーンを狙わないと、きっと後悔する、と思ったから…」
覚悟を決めた1打だった。だから、失敗しても、後に引くこともなかったのだ。
この日は、久々にラウンドをともにしたベテランの技に、圧倒されっぱなしだった。
「特に、パットとアプローチ。だけど、ものすごいことをしているのに、中嶋さんにとっては、それが普通みたいで。自信の裏付けが、そうさせるのだ、とつくづく感じた」
そんな「偉大な先輩」に、最後まで、真っ向勝負で、向き合った。
ドロップして、打ち直しの第4打は、ピン左7メートル。
これをど真ん中からパーセーブすると、18番グリーンは興奮の渦。
観客席に、そのボールを投げ込んで、
「今週、自信になる2位。今年を締めくくるにふさわしい戦いでした!」
夕陽を浴びた田中の背中に、大きな充実感が漂っていた。