Tournament article
ウッドワンオープン広島ゴルフトーナメント 2006
平塚哲二がツアー通算3勝目
まるで「人ごと」のような顔でプレーを続けたのは、ほかでもない。
「尋常ではないプレッシャーがあったから」こそ。
「人一倍、ビビるたち」。
片山晋呉とS・K・ホが激しい猛追を見せた後半から、手がブルブル震えていた。
そこから少しでも自分の気をそらしたくて、「勝ちたい」と逸る気持ちを懸命に押しとどめた。
揃って1打差に迫られたが、「それはそうやろう。2人はめっちゃ上手いんやから」。
平塚も、続く3位につけていたとはいえ相手は先週まで賞金ランク1、2位の選手だ。
「彼らなら、1ストロークにされてもしゃーないやん。勝てんでも、自分のゴルフができればそれでええやん」。
そう言い聞かせることで、必死でプレッシャーを跳ねのけようとした。
それでも、怖くなったときはすぐに胸に手をやった。
肌身離さず身につけている小さなロケットには父・央さんの写真。
昨年4月に肺がんで亡くしたときは、「ぽっかり穴が空いたみたいだった」と、振り返る。
父のスパルタ教育でゴルフを覚えた。
毎週、会場にきては夜、酒の肴に「あのショットはこう」とか「あれはどうだった」とか、息子とプレーを振り返るのを楽しみにしていた。
そんな父を喜ばせるために、これまでゴルフをしていたようなものだ。
「今でもまだ、そのこらへんの木の陰で俺のことを見ているような気がする。できるだけ早く勝って、成仏してもらいたかった」。
ツアー通算3勝目は亡き父のために。その気持ちが支えだった。
そう思いながら、結局あれから1年以上を要してしまった。
一時期ゴルフの調子さえ崩し、「もう勝てない」と、落ちこんだこともある。
それでも毎週月曜日、みっちり3時間のトレーニングを欠かさなかった。
内藤雄士コーチと取り組んできたスイング調整。
これまでは、そのアドバイスも理解できないことのほうが多かった。
しかし練習に練習を重ねてきた今は、理想に「近づいてきた」と実感できる。
この日「口から心臓が飛び出そうなくらい」のプレッシャーも、「普通にしてればきっと勝てる」という確かな手ごたえには及ばなかった。
辛くも1打のリードを守って迎えた18番。
奥カラーから6メートルのバーディパットは、「まさか入るとは思わなかった」。
「思い通りのラインに乗った」と思った瞬間、これまで抑えに抑えてきた感情が爆発した。
アッパーカットのガッツポーズ。
勝利の咆哮。
小山内護、川原希、矢野東、井上信。そのほか、たくさんの仲間たち。手荒い祝福を受けながら、ウィニングボールはそっとポケットに。
“指定席”は、京都の実家の仏壇の中だ。
「・・・オヤジのコレクションなんですよ」。
つい感傷的になってしまう自分を、照れ笑いでごまかした。