Tournament article
マイナビABCチャンピオンシップ 2008
石川遼の戦いは続く
もっともコーチで父の勝美さんにはそんな息子の心理が理解できないようで、「おしゃれに時間をかけるのはいかがなものか」と、眉をひそめる。
父親にしてみれば高い目標を実現するために、そんなことにうつつを抜かしているヒマはないといったところであろう。
だが息子にしてみれば、それは厳しい練習の合間のささやかな楽しみでもある。
無邪気な高校生に戻れる瞬間でもある。
ジュニアの試合に出場していた時期は、そのことでしばしば親子が衝突したこともあったようだ。
その点では相容れない2人だが、ことゴルフに関することならば完璧に意見が一致している。
「ずっとお父さんを信じてやってきたし、これからも信じてやっていきたい」と息子は絶大な信頼を寄せるのだ。
当の勝美さんは、父親の意見に素直に耳を傾け精進してきた息子に「逃げないで、頑張ってきた。努力してきたことへのご褒美はあったようですね」と目を細めながらも、「あの子がもともと持っているアプローチとパットのセンスで勝てた。僕の力じゃありません」と謙遜する。
そして最良の日にあってさえも、「今日は全然、教えたショットが出来ていなかった」と、手厳しかった。
「これからも、もっとやれということでしょう」とつぶやいた勝美さんは、昨年5月のツアー初優勝の際にはともに笑顔でおさまった表彰式後の記念撮影も断った。
今年1月に、親子で決意した史上最年少でのプロ転向。
二人三脚で歩むいばらの道は覚悟の上。
浮かれている暇はない。
喜びに浸る間もなく、揃ってこの先に待ち受けるであろう厳しい現実を見据えた。
「これまでゴルフの難しさとか、気持ちのコントロールにすごく苦しんできたけれど。僕はまだまだ本当のつらさを知らないと思う。これからなんです」と息子が唇をかめば、「周囲の期待から逃げるわけにもいかない。これからは、あの子自身がそれに答えていかないといけない」と、父。
そのためにも、ひたすら練習あるのみだ。
「どんな世界の一流選手でも一生調子が続くわけではないし、良い時も悪いときも、大切なのはいかに努力をしていくか。これからも、自分が一番下手だと思って練習を続けたい」。
ぶれない視線の先には、世界の舞台が待っている。