Tournament article

マイナビABCチャンピオンシップ 2008

石川遼は「まだまだ強くなりたい」

この日最終日だけで1万2937人を集めたギャラリーは、昨年比で約2倍。今大会だけではない。今季の開幕戦からどのトーナメントでもギャラリー数が軒並みアップしている。その効果は一目瞭然で、「これほど大勢の前でゴルフが出来るのは、プロ冥利に尽きる。遼クンのおかげです」と、頭を垂れる選手もいるほどだ。

当の石川も大声援に無邪気に応えているようで、実は自問自答していた。
「これほどに期待されるほど、僕はゴルフが上手いのか。僕はこの中でも一番下手な選手なのに」と、そんな引け目を感じてしまうのも当然だった。

プロ1年目の17歳。
それでも毎週のように、大ギャラリーを引き連れてのラウンドに「せっかくの応援をプレッシャーには思いたくない」。そうは言いながらも背負うものの大きさに、押しつぶされそうになっていた。

特に9月だ。
ANAオープンと、アジアパシフィック パナソニックオープンと、コカ・コーラ東海クラシック。
いわゆる“ホスト大会3連戦”で立て続けに予選落ち。
「どんなに頑張っても結果が出せないときもある」。
そう自分に言い聞かせても、忸怩たる思いは拭えなかった。
「自分はここにいてもいいのか?」。
プロとしての存在価値を疑ったこともある。
「こんなゴルフでお客さんが満足してくれるわけがない」と、自らを追い込んだことも。

だからこそ、誰よりも多く練習場に足を運んだ。
誰よりも多く球を打った。

プロ転向後19試合目のツアー初優勝に、専属キャディの加藤大幸さんが証言する。
「彼はそれだけのことをしている。人より3倍も4倍も、練習している」。

朝、選手たちがコースに来る時間の目安はたいていスタートの1時間半からせいぜい2時間前だ。
しかし、石川はこの週も、毎日3時間前には姿を見せた。
スタートまでに練習場に必ず2度足を運び、調整を重ねていた。

しかもただ漫然と打つのではない。
「1打1打、ラウンド中と同じ集中力で。毎日毎日、よく続くなと思うくらい」と、加藤さん。
そんな日々の中で、確かな手応えを感じるようになったのは10月のキヤノンオープンのころからだった。

翌週の日本オープンでは単独2位。
さらに先週のブリヂストンオープンで12位タイ。
そのころには、加藤さんの目から見ても「いつ勝ってもおかしくない」といえるまでに仕上がっていた。
ギャラリーの声援にも堂々と応えられるようになっていた。

今回の優勝賞金3000万円を加え、賞金ランクは6位に浮上した。
目標だったツアー最終戦「ゴルフ日本シリーズJTカップ」の出場権も手に入れた。
今年の最優秀新人賞「島田トロフィ」の最有力候補にも名を連ねたが、「まだまだ上手くなりたい、まだまだ強くなりたい」と、どん欲だ。

17歳には酷ともいえる重圧もみごとにはねのけ、つかんだこの1勝も、石川にとっては通過点に過ぎない。
“伝説”は、いまようやく始まったばかりだ。

  • 大会を支えてくださったボランティアのみなさんにも感謝の気持ちを忘れない!!

関連記事