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日本プロゴルフ選手権 2008

細川和彦「ゴルフが出来るだけでも幸せだ、と」

ウェスト部分がぴたっとフィットしたスリムなパンツが主流の中、頑固に「2タック」のズボンをはき続ける数少ないプレーヤーの一人だ。ある日、やはり愛用者のジェット尾崎に「なあ、カズよ。俺たちはず〜っと、このスタイルでいこうな」と言われて笑ってうなずいた細川だが実は、ノータックのパンツが履けない深刻な事情がある。

2001年に難病指定の潰瘍性大腸炎を発症し、一度は「俺のゴルフ人生は終わった」と絶望した。
しかし投薬や漢方の力を借りて、症状だけでも軽くする方法があると分かって気持ちを取り直し、五輪選手の強化トレーナーをつとめる筑波大の白木仁・先生に、内臓に負担がかからないトレーニング

法を教わったり、妻・玉枝さんに減塩メニューを考えてもらったり・・・。

2タックのパンツも、そのいっかんだ。
たとえば、飛行機から降りたとたんに発症する、いわゆるエコノミー症候群。「あれは、特にジーンズとか、きついズボンを履いていた人がかかりやすいんだって」。
それと同じで、スリムなパンツは持病にも悪いだろう、と判断してのことだった。

そんな本人の地道な努力と周囲の理解のおかげもあって、いまは症状が抑えられているが、「今日は良くても、明日また悪くなるかもしれない」。
今でも再発の不安と、隣り合わせの毎日だ。

それでも、細川は前を見つめる。
「ゴルフが出来るだけでも幸せだと思って・・・。自分と同じ病気で苦しむ人が、ほかにもたくさんいるから」。
そのためにも、なんとか結果を残して人々を勇気づけたい。
そんな熱い思いをぶつけたこの日の8バーディ。
しかも、ボギーなし。
13番で4メートルを拾った。さらに次の14番は、左の斜面からグリーン左のラフに打ち込んだアプローチを寄せきれず、やはり4メートルのパーパットを沈めてしぶとくしのいだ。

自身のベストスコアは63だが、すべて発病の前に記録したもの。
この日の64は「病気をしてからの自己ベスト」。
前回のツアー通算8勝目は、2005年のUBS日本ゴルフツアー選手権 宍戸ヒルズだ。
約3年間、遠ざかった勝ち星は、99年のゴルフ日本シリーズJTカップに続く3つめの“日本”と名のつくタイトルで埋めたいところだが、「試合は何でもいい、とにかく勝ちたい」は病気を乗り越え久しぶりにチャンスを迎えた男の本音だ。

首位の片山とは差がついてしまったが「やりがいがある。面白くしたいし、自分の自信づけにもなる。少しでも晋呉を脅かすゴルフができれば」。
がむしゃらに、リーダーを追いかける覚悟でいる。


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