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ANAオープン 2009
谷口徹が2年ぶりのツアー通算15勝目
残り176ヤードの第2打は、フェアウェーから右手前のバンカーに打ち込んだ。アプローチは大きくオーバー。奧6メートルと寄せきれずにボギーを打った。さらに次の7番でもバンカーに入れて連続ボギーだ。
逆に同組で争う中嶋常幸は、4番から連続バーディ。さらに7番のバーディで、2打差まで詰め寄られて心底ヒヤリとした。
「これで負けたら、家に帰れない」。
前夜、長女の菜々子ちゃんに電話で言われた。「菜々も頑張るから、パパも優勝してね!」。
父親が試練を迎えていたちょうどそのとき、幼稚園の運動会で奮闘しているであろう、娘の顔が浮かんだ。
5打差の首位でスタートしながら、愛娘の約束を破るなんてあり得ない。
「たとえ並ばれても絶対に勝つ」。
持ち前の負けず嫌いを奮い立たせて13番でとどめの一撃。121ヤードの第2打をピンそばにつけ、4打差で逃げ切った。
92年のデビュー戦が、このANAオープンだった。しかし木の上を舞う風と、グリーンの複雑なアンジュレーションに通算11オーバーで予選落ち。「ここでパープレーで回るだけでも凄い」と、輪厚の難しさに度肝を抜いたことを、今でも覚えている。
あれから17年。4年ぶりの出場は、久々の輪厚だからこそ、自身の成長を実感することが出来た。「この風ならどこに打って、どこの乗せればいいか。そしてパットはどうストロークすればいいのか、はっきりと分かった」。経験が、何より生きると言われるコースで迷うことなく、頂点を駆け上がった。
大会主催の全日空で、キャビンアテンダントをつとめていた妻・亜紀さんと出会ったのは2004年の今大会。
そして今年は中嶋との優勝争い。「その背中をずっと追い続けてきた」。目標にしてきた偉大な先輩と、最終組で争って初めて競り勝った。「それが、何より嬉しい」。
輪厚の森に、またひとつ大切な思い出が出来た。
そして、新たな夢も。
「僕らは辞める時期が決まっていない仕事だから、引退が見極めにくい」。今年41歳を迎え、「自分は45歳くらいで十分かな」と漠然と思っていたが、54歳の中嶋の戦いぶりを目の当たりにして考えが変わった。
「1打1打に重みを感じた。僕も終身シードを取って、中嶋さんの年まで頑張りたくなった」と、ツアー通算25勝を視野に入れた。
前回のツアー通算14勝目は、2007年。しばらくおとなしくしているうちに、いつのまにか回りには10代、20代の選手があふれかえっていた。
結果がすべてのこの世界。
「若い子に、友達みたいに気安く肩を組まれたり……。それって僕がAONには決して出来ないこと。勝ってないだけに、最近なめられているな、と感じていた」と笑う。
まして「そろそろ世代交代」とまで言われては、黙っておれない。
この1勝を機に、「まだまだ、100年早いよ!」と、若手全員を敵に回して堂々と宣戦布告だ。
中でも一番のターゲットは、「そりゃあ、遼くんでしょう」と、ニヤリと笑った。
現在、賞金ランクのトップを走る18歳の石川遼は、早くも史上最年少の賞金王の呼び声高いが「まだまだ、そんな簡単には勝たせない」。
これで賞金ランクは8位に浮上。石川とは5462万3423円の賞金差も意に介さずに、「まだまだ、自分にもチャンスがある。この1勝をきっかけに2勝、3勝とあげますよ!」。
強い谷口が戻ってきた。