つかみは完璧。デモンストレーションの第1打は、お約束の空振りで始まった。純真な子どもたちは、そんな思惑にも、微塵の疑いを持たない。あこがれのプロがまさかの大失態?! みな一瞬あんぐりと口を開けた。
と、すぐにドっと沸いた。作戦どおりだ。一気に興味を引きつけたらさあ次こそ、豪快ショットで魅せてやる。
・・・はずだったのだが2打目は、これまた2度目の大ボケですか?! 今度はランチパット(ティアップ用のゴムマット)も吹き飛ぶ大ダフリだ。「イテテテテ・・・」。これほどに地面をぶっ叩いたのもかつてない。手首をプルプル、のたうちまわった。「さあ、おとぼけはこれくらいにして・・・」とのスタッフの懸命のフォローにも、「いや、今のはマジなんスけど!」。正真正銘のミスショット。恥ずかしさで、思わず出たプロの“告白”。笑い声にかき消されたのが幸いだった。
スタートの2009年から数えて、30人目となる「ゴルフ伝導の旅」。上田は始まる前から不安だった。まず最初のスナッグゴルフ講習会は、むしろとっくに放課後のクラブ活動で体験している子どもたちのほうが、「絶対に上手いはずや」。対して上田は“初心者”どころか、ゴルフではアイアンに当たる、“ランチャー”も握ったことがないのだ。
しかも、この日は鈴鹿山脈から吹き下ろす通称「鈴鹿下ろし」の強風が吹き荒れ、校庭からもほど近い東建多度カントリークラブ・名古屋で、つい3週前に終わったばかりの開幕戦「東建ホームメイトカップ」にも匹敵する“難条件”だ。
大山田西小学校は、三重県の桑名市内ではわずか2校だけという、贅沢な芝生の校庭がご自慢だ。太田雅睦・校長先生と、早川由浩・教頭先生が、端正こめて育てた“フィールド”は、申し分ないセッティングに仕上がっていても、肝心のプロの“腕”には覚えがない。普段使っている愛用のクラブとは、重さも、長さもまったく違う。的にくっついたらホールアウトのゲーム方式も、勝手が違う。
4、5、6年生が参加した講習会は、学年ごとのパター合戦も、助っ人として加わったが満点にはほど遠い5点しか稼げなかった。アプローチ合戦もまたしかり。そして最後のラウンド合戦も、プロの威厳を示せなかった。
ハンディ2をあげた6年生の水谷翼くん。5年生の空葉月さんにも、ご両親が練習場を経営されているだけに、完成されたショットで圧倒された。水谷くんより厳しいハンディ1でも、勝てなかった。3人ともタイスコアの「3」に終わったばかりか、空さんには「プロに勝てなくて悔しい」と、本気でライバル心をむき出されては、ツアー1勝のプロゴルファーも形無しだ。
それにしても、元気いっぱいの子どもたち。講習会のさなかに、友達ととっくみあいのけんかをする子。友達とボールを投げ合って、戯れる子。みんなが球拾いの最中に、勝手に一人でボールを打つ子。
やんちゃな様子に、自分が重なる。今も、幼なじみたちは上田を評して決まってこう言う。
「ガキ大将が、そのまま大人になった」。
学級会で、ひとり騒いで後ろに立たされてもなお、しゃべり続けて先生に叱られた小学生時代。この日も、まずは校長室に通されて、つい緊張した。「いたずらをして、呼び出されたときを思い出してしまって」。クラスに必ず一人はいるお調子者。それが上田少年。その反面、先生に叱られるとすぐにショボンとする子どもでもあり今日も、一人の男の子を指して「あの子、昔の俺に似ている・・・!!」。
でも、だからこそ同じ視線に立てる。ラウンド合戦では、進んでヒール役を引き受けた。「大人げない!」と子どもたちから大ブーイングを浴びても、本気の真剣勝負だ。ナイスショットにも、わざと嫌味なくらいのガッツポーズで完全に子どもたちを敵に回して、盛り上げた。最後には、全員が水谷くんと空さんの応援に回って、完全にアウェイの戦い。どうにか引き分けに持ち込んで、体一杯喜んだ。
4年生と囲んだ給食は「少し足りんかった」と、腹八分目で食べ終わるなり、子どもたちといっせいに校庭に飛び出した。昼休みはほんの数十分のひとときに、ドッヂボールで汗を流せば、ますますよみがえってくる幼少時代だ。あのころは、いつも何かに夢中だった。中3から始めたゴルフは最初、それこそこの日の“第1打”と同様に、最初は空振りばかりでだから尚更ムキになり、1日1000球打ち込んだ。
子どもたちと戯れるうちに、当時の熱い気持ちを思いだした。
「また初心に戻ってやれそうです」。2007年に、まさに地元の東建ホームメイトカップでツアー初優勝を飾って以来、遠ざかったままの勝ち星。「また優勝してみんなに会いに来るよ」と、約束した。