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フジサンケイクラシック 2009

久保谷健一「僕に期待しないでください」

週末は、家族が駆けつけた中での優勝争い。2打差の2位に食らいつき、呼ばれたインタビュールームの壁際に、8歳になる長男の天祐くんがじっと耳をそばだてていた。

息子がそこにいるのを承知で、父親は申し訳なさそうに言った。
「あと、2週間くらい待ってくれる?」。
前回の優勝は2002年。ツアー通算4勝目は2週連続Vだった。その最初が日本プロで、家族の前で勝ち取った勝利だったが当時、天祐くんは2歳と2ヶ月。
覚えているわけもない。

だからこそ、ツアー通算5勝目はここで、という父親の威厳をみな期待したのだが、いかんせん昨年8月から続けてきた23試合連続予選通過が先週、途切れたばかりということが、本人には引っかかっているようだ。

「(優勝を)見せたいけれど、予選落ち上がりだし。子供に見とけよ〜といえるような内容ではないし」と、口ごもる。

「僕に、優勝争いを面白くしてくれよという希望はあるかもしれないけれど……」と、最終日の役割も当然、分かっている。
3位以下は、5打差もあいてしまい、いまもっとも勢いのある17歳を止められるのは、どうやら久保谷しか、いなくなってしまったからだ。

しかし、当の久保谷は相手をべた褒めするばかりだ。
そういえば、石川遼が15歳のアマチュアながら、ツアー初優勝を飾った2007年のマンシングウェアオープンKSBカップで最終ラウンドで一緒に回り、露払いを演じたのが久保谷だった。
当時との比較をしながら久保谷は語った。

「遼くんの豪快さは相変わらず。それより、パットの精度が素晴らしくなったね。いくらショットが良くても、パットが入らなければ伸ばせないですから。お手頃のを良く入れますよ。あと、回りを気にせず集中出来ているのも良い。崩れて来そうだな、という場面でも、もう1回立て直せるのが凄い。エライ子です」。

散々褒めちぎったあとで、きっぱりと言い切った。
「僕には期待しないでください」。
さらに、顔をしかめて言い募った。
「全英と同じです。今日、伸びなかった他のみんなが悪い!」。

深刻な腰痛をおして出場した7月の全英オープンは、初日に2位タイの大活躍をしたことも手伝って、石川遼を筆頭に、日本予選から出場した日本勢はみな決勝に進めなかったことで、なおさら久保谷ひとりの肩に期待がのしかかってしまった。

「あのときだって、勝手にみんな予選落ちしてしまったもんだから」と、今になってブツブツと文句を言った久保谷は断固として言った。

「申し訳ないけれど、明日は遼くんと戦う気はゼロ。僕は、2着は絶対に譲れないという気持ちでやる」。

その言葉の裏には、「誰かを相手にしてゴルフはしたくない」という本心がある。
「人を見てやるのはマッチプレーだけでいい。遼くんが伸ばそうと、関係ない。僕が伸ばせれば、それでOKなんです」。

そう言う久保谷の目標は、昨年の優勝スコアだ。
「13まで行ければいい。それで優勝できなかったらしょうがない。選手にも、いろんなタイプがいるんです」と訴えた久保谷は、「ゴルフだって、あんまり良い状態じゃないんですから」と、最後はやっぱり後ろ向きなコメントで締めたが、そんな夫に妻の久美子さんは笑いながら言った。

「主人は家でも前向きなことを言ったことがない。でも、それでいいんです。彼が自信満々なことを言い出したほうが、かえってこちらは心配ですから」。
確かに、過去4勝はすべて、後ろ向きなことを言い続けて勝っている。

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