史上最も小さな勝者が、強心臓で逃げ切った。最後は5メートルのイーグル締めに、身長158センチが大きなガッツポーズを作った。大会史上最多アンダー記録の通算26アンダーは、5打差の圧勝だった。

3打差首位から出た最終日は、朝イチの便で沖縄から家族が駆けつけた。途中2差に詰められた場面も比嘉はいっさい表情を変えなかった。
「あれは子どものころから良くても悪くても顔に出さん。そういう性格。自分の中で気性ができている」と、父親の洋さん。
「私が見ても、緊張してるか全然わからん」（洋さん）。
1イーグル、5バーディ1ボギーの66で回りきった強心臓の小さな巨人が初Vを大差で逃げ切り、普段は家族にさえ徹底したポーカーフェイスも、最後は家族の前に崩れた。例年、異例尽くしの大会は、最終組を迎える18番グリーンが今年初めてギャラリーに解放されて、その瞬間も家族の顔がすぐそこに。
抱き合い「いま一番喜びを伝えたい人は誰か」とマイクを向けられ笑顔がゆがんだ。
「今までいっぱい応援してくれたので…」と、タオルで顔を覆っても涙と感謝の気持ちは、隠しきることができなかった。

昨年の賞金王は165センチ。その今平よりまだ低い。身長158センチは、99年のJGTO発足後としては、もっとも小さな勝者である。
背を伸ばそうと、鉄棒にぶら下がったり、牛乳を飲んだり、3つ上の姉・彩乃さんにおかずの肉と野菜を交換してもらったり。積極的につとめたが、専門家に「もう伸びない」と、宣告を受けたのは高校の時。
母親の恵子さんは、少なからずショックを受けたそうだ。
でも、本人の切り替えは早かった。
「自分はこれでやっていくしかない、と。逆に吹っ切れたようでした」（恵子さん）。
身長を伸ばすために控えていた筋トレを、すぐ解禁。
「飛距離というより、1年戦い抜くスタミナをつけたかった」と比嘉はいう。
その後、宮城の名門・東北福祉大に進み、ナショナルチームに交じって「世界基準のコーチングも受けられた」。
海外の交流戦で、身長2メートルもの外国選手に4、50ヤードも置いていかれて「やっぱりラクそうだな…」。
羨む気持ちはあっても、落ち込むことはなかった。
「出来ないことはできない。違うところで勝負するしかない」。
体格差を埋めるため、ひたすら練習するしかなかった。
やがてゴルフは生活そのものになった。
「今もゴルフ無しで1日自由にしてみろと言わても何も出来ない。ゴルフばっかりしてたので。遊びに行くのも、ゴルフをしてから。歯磨きと一緒みたいな感じです」。
小さな求道者が、ついに大きな勝利をつかんだ。

「家族が観戦時に、後ろでギャラリーから”小っさ”とか声が聞こえるらしい」。
家族が心を痛める心無い声も、本人は「それでも僕を観てくれているのだから」と、プラスに受け取る。
「小さいのはしょうがないじゃないですか。それでも、ゴルフに限らずほかの競技でも、その中で自分が準備をして、どれだけやれるか。自分の体をハンディに感じている人たちを勇気づけられたら。アマチュアのときからずっと思ってきたことでした」。
158センチでも、やればできる。
大量リードの初勝利は、それを証明するという意味でも大きな価値ある1勝だった。

＜比嘉一貴（ひがかずき）＞
沖縄生まれの24歳は、身長158センチの小さな巨人。地元が誇る宮里兄妹の父・優さんの師事で、10歳からゴルフを始める。地元の本部高校から、宮城・東北福祉大学時を通じて国内外であまたのタイトル獲り。
卒業年時に受けたツアーのQTサードではまさかの失格を喫するも18年に、行き場を求めて挑戦したアジアンツアーの二部ツアーで、デビュー戦V。帰って、即日本のAbemaTVツアー「南秋田CCみちのくチャレンジ」で、国内プロ初V。勢いのまま、レギュラーでは同年に初シード入り。最初の躓きにもめげない逞しさも含めて、大学OBの松山英樹もその実力を買っている。

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