記事

「28才、結婚をしました・・・!!」by松村道央

シチューをひとさじすくうごとに飛んでくる質問。「次の授業で話すことがなくなっちゃう!!」
午前中のスナッグゴルフの講習会を終えてひと息ついた“お茶請け”にと、大場喜代江・先生が差し入れてくださったのは、庭の畑で採れた蕪と、わざわざ隣県の秋田の山でつんでこられたというワラビのお漬け物。至福の“前菜”が、ますますプロの食欲をあおった。ちょうどそのころ、子供たちが配膳中の給食は、実は松村には生涯初の味だった。

ゴルフ部のある中学に通いたいと、地元・埼玉から栃木の学校に越境入学。小学校からずっと私学で、弁当か学食しか知らなかった。「だから今日はすっごく楽しみでした」と、まずはおかずのシチューをひとさじ味わうなり、質問が飛んできた。

「ゴルフでつらかったことは何ですか」。
「一番、楽しかった思い出は・・・?」。
「他に好きなスポーツは?」
「・・・結婚は、してますか?!」。

どれもこれも、午後からの講演会「夢をもとう」で話そうと、台本を練ってきたネタばかりで「次の講義で話すことがなくなっちゃう!!」。悲鳴を上げたが、案ずることはなかった。
たとえば「つらかった記憶」をひとつとっても、一度きりじゃない。思い返せばいくつもある。

ジュニア時代に初めて出場した大会で、最下位から数えたほうが早かったことや、なかなか芽が出なかった大学時代。節目、節目にいつも、松村が心に言い聞かせたことは「まず目標を作り、そのための努力と練習を怠らないこと。人より二倍も三倍も、たくさんボールを打つこと」。

練習は裏切らない。その信念が、いつも大きな力になった。そしてまさに、その大切さを再び痛感しているのが今だ。一昨年にツアー初Vから一気に年間2勝を挙げながら、昨年は未勝利に甘んじたのは、明確な目標を持たずにシーズンを迎えてしまったことが原因と、自分なりに分析している。

今年も、恒例の谷口徹の宮崎合宿に参加して、いっそうその反省は強くなった。“師匠”の谷口と、弟子仲間の上田桃子プロに「今年は3人で、勝ち星で勝負しよう」と持ちかけられて、これまでにない闘志がふつふつと沸いてきていることを、松村は自覚している。「今年は年間3勝が目標です」と、子供たちの前で目下の目標を打ち明けた。

1983年に生まれ、父のすすめで10歳でスキーからゴルフに転向。2010年のツアー初優勝など、これまで28年の“人生年表”は、正面の黒板に。その中で、特に子供たちに伝えたいことは、左側のホワイトボードに分けて書くなど松村なりに、さりげなく工夫を凝らした板書の最後にチョークでしたためたのは、「28才 結婚をしました」。

給食の時間にも、子供たちに興味津々で聞かれたことだ。12月15日に入籍したばかりの香織さん。当初、この“ゴルフ伝道の旅”でお披露目するつもりだったがあいにく新妻に、きゅうきょ予定が入ってしまって子供たちを残念がらせた。

香織さんも、来られずに悔しがっていたものだがその分、スマホには満載の子供たちの笑顔が。また、講演会の最後の子供たちの歌のプレゼントも、感動の歌詞と美しいハーモニーとともに、ぬかりなく動画で残してある。それと大きな花束と、地元名産のお菓子など、抱えきれないほどの贈り物が、そっくりそのまま愛妻へのお土産だ。

ここに来るまでは、子供はちょっと苦手だった。「今まで触れあう機会がほとんどなかったし、どう接したら良いかも分からなかったから」。でも、それも今日で返上だ。講習会でも講演会でも、「松村さん、格好いい〜!!」と、無邪気に羨望のまなざしを向けられれば、普段は“クール”で売っている選手の眉尻も自然と下がる。口元がつい緩む。「子供は可愛い」と、思わずにはいられない。香織さんと、「2人くらいは欲しいね」と、常々話している“家族計画”も、今日の旅をきっかけに、ますます現実味を帯びそうだ。
  • でも心配ご無用。子供たちに話しておきたいことは、他にも一杯!!
  • 板書の最後にしたためたのは・・・・・・!!
  • 花束や抱えきれないほどのお土産とともに、子供たちがプレゼントしてくれた歌「スマイルアゲイン」は歌詞のみならず、その歌声もまた素晴らしくて思わず聞き惚れて・・・

関連記事