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マイナビABCチャンピオンシップ 2009
鈴木亨が5打差の首位に
ボギーなしの4アンダーで迎えた最終18番が、最大の見せ場だった。
残り224ヤードの第2打は、スプーンでグリーン左奧のラフ。そこから10ヤードのアプローチがカップイン。たちまち大歓声に包まれて、思わず声も上ずった。
「ラインに乗って入ってくれて……。あれは、興奮しました」。
大ギャラリーに向かって振り向きざまに右手を突き上げ、ガッツポーズで応えた。
「風が吹いてきた中で、自分でもよくやったな、と」。
5打差の首位に自分を褒めた。
難しいコンディションの中で66のベストスコアは、不甲斐ない自分を払拭したいという強い気持ちの表れだった。
「せめてゴルフでプロとしての責任を全うしたい」という、懺悔の気持ちでもあった。
同組で回った髙橋竜彦がなんと、4ホールの過少申告で失格したのは前日2日目。
そのマーカーが、鈴木だった。しかしどうしたことか、途中からスコアカードにはもう一人同組の山本隆允(たかまさ)のスコアを書き込んでいた。
だが通算9オーバーで、予選を通過するには絶望的なスコアだった髙橋は、ひどい腰痛を抱えていたこともあり、よくチェックもしないままにカードを提出してアテスト場を出ていった。
その直後に記入ミスが発覚。一番青ざめたのが鈴木だった。
あとから戻ってきた髙橋は、「確認しなかった僕が悪い」と言ってくれたが、鈴木の気持ちが収まるはずもない。
まして、あれこれ気に病むたちだ。
「竜彦には本当に申し訳ないことをした。プロとしてしっかりチェックできずに落ち込んでいた」と、その夜は同じ光景が夢にまで出てきたほどだった。
しかも、失態はこれが初めてではなかった。
以前、やはり鈴木がマーカーをつとめた伊澤利光が過少申告で失格したこともあり翌日にはそれを気に病み、スコアを崩した経験があった。
「そしてまた、今回もやってしまった。それが本当に情けなくて」。
それでも踏ん張れたのは、周囲の支えがあったから。事件を知って「気にしなくていい」と、励ましてくれる人が大勢いた。
中でも、妻でプロゴルファーの京子さんの強い言葉だ。
「そんなことで、スコアを崩すほうがプロとして恥ずかしい」と言われた。
また、長女でアイドル歌手の愛理さんの、ハートの絵文字満載の応援メールだ。
「パパになら出来る」との励ましのあとに「パパ大好きだよ」。
「…可愛い娘に言われちゃったら、もう」と、もやもやも一気に晴れた。
そして迎えたこの日3日目は、まずはマーカーの藤田寛之のスコアチェックも入念に、前日の失敗に、くじけてしまいそうな心は目の前の1打にただひたすら集中することで、懸命に踏みとどまった。その結果の大量リードだったのだ。
最終日最終組は、ホスト試合で連覇を狙う石川遼との対決。だが、それは予想出来ていたことだ。
「あの子なら、そうするだろう、と」。
石川は、韓国の金亨成と通算7アンダーの3位タイに並んだが、2人のうち先にスコアカードを提出したほうが、翌日のペアリングはより後ろの組になる。
「気持ちが、前に前に行く子だから。誰よりも先に出して最終組を狙うだろう」。
果たして、思ったとおりになったがいまもっとも勢いのある18歳との戦いにもひるまない。
「人のことは関係ないから」。
いまは、2004年以来のツアー通算8勝目を掴むことしか心にない。
「家族をはじめ、たくさんの人たちをもう5年も待たせていますから」。
ただ、恩人たちの笑顔が見たいから。
「明日も自分のやるべき事をやりとおすだけ」と、言い切った。