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松山英樹がゴルフの故郷で1打罰(全英オープン3日目)

1打罰を受けることになった問題のリカバリーショット。
21歳は、ゴルフの故郷で懸命に、奥歯を噛みしめた。悔しさ、憤り。無念さ。それらすべてをぐっと喉の奥に飲み込んだ。
5打差からスタートした全英オープンの3日目。一時は、そのとき首位を走っていたタイガー・ウッズに1打差まで迫った。

11番で3連続バーディを奪って通算1アンダーは4位タイ。ちょうどそのころ、ウッズがボギーを打ち、次の12番で松山がもし、右奥から2メートルもない絶好のチャンスを決めていれば、ウッズに並んでいたところだった。リーダーボードにも名前を載せて週末の優勝争いは、さあこれからというときだった。

急ブレーキがかかったのは、17番だ。左に大きく曲げたティショットは、運悪く日本人のギャラリーの背中を直撃した。幸いにも大事には至らなかったが、すぐにお詫びに駆け寄った松山は、手袋にサインを渡して「申し訳ありませんでした!」。頭を下げると、周囲のギャラリーから拍手喝采が起きた。そんな心温まる光景が一変したのは、ブッシュから無事、脱出に成功した直後だった。

松山の組に帯同していた競技委員のデービッド・プロビン氏から、1打罰を告げられた。スロープレーとみなされて、ペナルティを取られたのだ。

最初の計測は15番だった。その時点で、前の組に1ホール以上離されていたばかりか、18ホールにかかるだろうとみなされる所要時間、いわゆるタイムパー(この日は2サムの3時間41分)から、すでに15分遅れていたという。そのため、グリーン上で松山は1打に要する時間を計られ、その際にも規定の許容時間の50秒を超える、1分12秒を記録していたという。

そのあとすぐに、1回目の警告を受けたが、松山は「後ろの組も遅れていたし、なんで計られなければいけないのか、分からなかった」という。事情もよく飲み込めないままに、2度目の計測が行われたのが、例の17番のセカンドショットだった。

「ボールに当たったギャラリーの方に、お詫びをして手袋にサインをする時間は、それに含まれていない」とは、競技委員長のデービーッド・リックマン氏だ。問題はそのあとということで、グリーンの方向を確認したり、歩測したり、専属キャディの進藤大典さんと距離の相談をして、いったん握ったクラブを持ち替えたりと、トラブルショットに要したのは2分12秒だった。

非常に難しい状況からの脱出ということで、酌量の余地を与えるにも「彼は少し、時間をかけすぎた」とリックマン氏。
しかし、すぐには事情受け入れられない21歳は、「意味が分からない。怒りを覚えた。そのまま最後ま行ってしまった」と憮然と、この日は一時はV争いの勢いも、最終ホールで完全に台無しに。

終盤までは、ほとんどフェアウェイをとらえていた絶好調のショットもさすがに乱れて、18番ではラフからラフを渡り歩いて、パーオンにも失敗。前のホールの1打罰も含めて連続ボギーの上がりには、なおさら気持ちが収まらない。

一連の経過に、「納得がいかない」と訴えたのは、松山だけではなかった。罰を受けた松山以上に憤ったのは、同じ組で回ったジョンソン・ワグナー。「そんな裁定はばかげている」と、競技委員を相手に猛抗議をしてくれた。「あの状況で時間をかけるのは、当然だと言ってくれて・・・」。

結局、裁定は覆らなかった。ここはミュアフィールド。世界で最初のゴルフルール13箇条が誕生した地としても、あまりにも有名だ。「この大会でも過去に遅延プレーでペナルティを取られた選手はいたと思うし、今週も1度目の警告を受けた選手は何人かいたが、2度目は彼が初めてでした。今週、罰を受けた最初の選手になってしまった」(リックマン氏)。

まさに、ゴルフルールの故郷で洗礼を受けた。「前の組に追いつこうとする努力が必要だったし、それはゴルフ規則が要求していることです」とリックマン氏はきっぱりと言ったが、松山にはそれでも最後まで、松山の側に立ってくれたワグナーの気遣いが嬉しかった。「彼には感謝しているし、尊敬している」。
そう言って前を向いた。この日、首位に居座ったリー・ウェストウッドとは、結局6打差がついてしまったが、「今日の1打は大きいけれど明日、取り返せるように頑張ります」。
今週、リンクスで過ごす最後の1日。最終日こそ、納得いく最高の上がり方をしたい。

  • ボールを当ててしまったギャラリーの方に詫びた際はミュアフィールドにあたたかな空気が流れたのだが・・・
  • 1打罰を言いわたされた瞬間
  • 今回の一件で、行われた公式会見。左が競技委員長のリックマン氏。各国メディアからも質問が集中し、思いがけない形でマツヤマの名前が世界中に流れた

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