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コカ・コーラ東海クラシック 2012
高山忠洋は「無我夢中」で単独首位
「サンドウェッジや、ピッチングウェッジで出して、3メートルくらいのパーを必死で拾った」。
気がつけば、1ボギーの68にも「いや、まったく計算なしのゴルフですよ」と、季節外れの酷暑に吹き出る汗をぬぐった。
持病の左親指付け根の腱鞘炎が、再発したのはこの春。
昨年は賞金ランキングで自己最高の2位につけて、海外の試合に出る機会も増えた。オフは「いつもと違うルーティン」に、この冬の寒さが追い打ちをかけた。
岐阜県で行われたツアー外競技の地区オープンで、「氷点下の日があって」。グリーンも凍る寒さに、患部も凍えた。
「左手首の末端に、血行不良が集中した」。
もともと、コックを使って球を操る選手もあまりの痛さに、「うまくクラブがさばけない」。
たとえるなら、「常に誰かに指1本を、押さえつけられているような感覚」。
筋肉の奥のまた奥にある小さな腱が引きつれて、「まるで地獄のような痛み」は、深部を暖めることで少しは痛みがやわらぐと、スタート前に患部の左手1本で、何度も何度も握ったクラブを振り下ろす。
その場面を見た関係者が、「高山はいったい何をしているんだ、と。怒ってクラブを叩きつけるときの練習をしているのか、と言われたりして」。そんな奇異な視線を浴びても、なりふり構ってなどいられなかった。
しかし、それほどのたうち回った痛みも、地元開催のこの大会ではなぜが不思議とぴたりと止んだ。手首の痛みがないだけ「ストレスもなくやれている」と、久々の好発進だ。
住まいのある愛知県の犬山市から車で40分の自宅通勤は、7月に長女の夏実さんが生まれたばかりで愛妻の梢(こずえ)さんは、まだ実家の熱海(静岡県)で静養中だ。
目下、男の一人暮らしは「“逆単身赴任”状態。家の中は引き散らかしている」と笑う。
いつも、携帯電話の写メールで子供の成長ぶりが送られてくる。先日は、梢さんから「目をきょろきょろ動かすようになったよ」とのメッセージが届いて思いが募る。以前は興味もなかった子供に関するニュースにも自然と目が行くようになった。「子供って本当に可愛い」と、父性に目覚めた。
「約1ヶ月会ってない。久しぶりに子供に会いたい」。
いつ再発するとも分からない手首の痛み。不安は胸の奥にひた隠しにして「最終日にこそ、良いことがあればいい」。地元での今季1勝で、堂々と愛娘に会いに行く。