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藤田寛之は開幕前から「鳥肌ものです」

今年142回目の全英オープンは、翌日の17日にいよいよ開幕を控えて、今週最後の練習ラウンドから上がってきた我らが賞金王は、珍しく心ここにあらずで「鳥肌ものです」。

感動の1日だった。前半の9ホールはかねてより、回る約束をしていたジム・ヒューリクに加えて、ジャスティン・レナードがメンバーに加わった。
「メジャーチャンピオンが2人もですよ!!」。いまこの場に自分がいられること。そのことがもうすでに「僕の財産です」。ひそかに噛みしめた喜びは、ハーフターンでさらに倍に。

レナードが、9ホールで終わると言って、握手を求めてきた。「きっとジムもやめるだろう」と藤田は思っていたが、藤田がそのまま最終ホールまでプレーを続けると知ったヒューリクは「僕も行くよ」。
恐縮しきりの藤田。
「俺のために行ってくれるんじゃないか?」。「いやあ、まさか。最初から彼も行くつもりだったのでは?」。専属キャディの梅原敦さんとこそこそとささやき合ううちにふいに、ヒューリックに「マッチプレーをしよう」と持ちかけられて、「本当は断りたかった」と藤田。「だって、そんな、僕なんかとでいいですか」。恐縮しきりで受けた勝負は「惜しくもワンダウンで僕の負け」。

さらに決着がつく直前に、割り込んできたのはロリー・マキロイ。一昨年の全米オープンのチャンピオンで現在世界ランクは2位のスター選手だ。松山英樹は予選ラウンドで回る。「いいな、英樹は。目の前でずっと見られる」と、羨ましく思っていたあの選手がどこからともなく現れて、18番のティグラウンドで合流してきた。わずか1ホールのラウンドだったが、「最上級の選手が来て、もうこれだけでお腹が一杯」。

赤い屋根が目印のクラブハウスをバックに3人で記念撮影もぬかりなく、感激しきりで上がってきた。「今日は1日緊張しぱなし。疲れました」と大事な本番を翌日に控えて、それでもあえて本戦前に自分にそういう状況を強いるのは免疫を作っておくため。

練習ラウンドは、気楽に日本人選手と、普段の仲間と回っていれば、それほど気を遣うこともない。しかしせっかくイギリスまで来てそれでは成長も収穫もない。とりわけスター選手とのプレーは「精神的にも疲れるけど、明日からいきなり外人選手と回るよりも、今日回って雰囲気に慣れておきたい。そういうことには積極的に取り組みたい」。

ヒューリクとは先の全米オープンから数えて2度目の練習ラウンドも、藤田が彼を慕う一番の理由は「自分とほとんど同じ距離で、プレースタイルも似ていて、そういう選手が230ヤードを迷わずアイアンで刻んだり、それはどういう意図で打っているのか。自分にも考える機会をもらうため」。

日本ツアーでは、正確無比で知られる藤田でさえ「僕とは全然違う」と感じるヒューリクの無類の安定感。「ミスをしない人だから。そういうのを肌で感じたくて、こうして時間を作ってもらっている」。

そんな藤田のために、ヒューリクが午後からも時間を割いてくれたのは間違いない。「彼のアプローチは、僕も参考にしているよ」と、ヒューリックは言ったそうだ。「良い練習パートナーだ」とも。
あとから伝え聞いた藤田は「へぇ・・・」と言ったきり、しばらくの間黙り込んだ。
そして「彼は優しい人だから。気を遣って言ってくれたんでしょう」と、あえてさばさばと言いながらも、まんざらでもなかった。
たとえお世辞でも、そんな言葉をかけてもらえたということが嬉しい。「メジャーに来ると、いつもお土産満載で、帰らせてもらえますね」。44歳はまだ練習日にして、充実感で一杯だ。

初めてのメジャーは2005年にセントアンドリュースで行われたこの大会だった。「あのときは全然、馴染まない感じで。自分がここにいていいのかな」と、圧倒されっぱなしだったがあれから2度のマスターズさえ経験して、44歳はすっかり落ち着いていた。
自身5度目の全英オープンの舞台はミュアフィールド。「今までのコースの中では、一番回りやすいかな。どこに打てばいいか分かるし、そこに打てば結果がついてくる感じ」と、手応えもある。今年は、怪我の影響もあって、今までになくショットに不振を抱えていたが、それもやっと徐々に上向いてきて、「今年、これまでの中で一番良い状態で初日を迎えられます」。珍しく言葉も前向きだ。

  • 後ろ姿ですけど、左がマキロイ、藤田とヒューリクです。右箸で写真を撮っているのがキャディの梅原さん
  • 回ったのはたった1ホールだったけど、マキロイとも握手をかわして「鳥肌ものです!」

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