記事
宇部興産オープン 1999
鈴木亨に起きた珍事
残り約20ヤードの第3打から、ピン上2メートルに乗せてバーディチャンス。
が、これをはずした瞬間、鈴木亨は思わずそばのギャラリーにこう声をかけてしまった。
「一緒にまわってくれません? もう、ひとりはヤなんです」。
こうぼやきたくなるのも無理はない。鈴木はこの日の大半を、ひとりぼっちで回る、という“孤独”を強いられたからだ。
まず、前半ハーフの17番ミドル(この日インスタート)終了時点。同組の佐藤信人が、腰痛のため脱落。後半を、もうひとりの同伴者、桑原将一と2サムでまわることとなった。
だが、鈴木はすでにその時点でちょっぴり不吉な予感。
「将一くんも、はじめから痛がってたんだ。で、無理するな、とは話していたんだけど僕に気を遣ってくれたみたいで…」。
実は、その桑原もスタート前から、左手親指痛を鈴木に訴えていた。
だが、佐藤に先を越されてしまった桑原は、鈴木ひとりを残してコースを去るわけにもいかず痛みを押してハーフターン。だが、1番ミドルをボギーで終えると、とうとう痛みに耐えきれなくなってしまった。そこから、鈴木の「一人旅」ははじまった。
ひとりなら、グリーンのラインを読むのにじっくり時間をかけられたりと、メリットが多そうだが、そう単純なものでもないようだ。
ひとりきりになった後の5番ミドルでようやくバーディを奪ったものの、どうもリズムが合わない。
「どんなにゆっくり目にプレーしても、すぐに前に追いついちゃう。前があくのを待つ時間が、どうしても長く感じられちゃって」
17番ショートでは約10分もの待ち時間。ティーグラウンドでバッグに腰かけ、マーカーとしてついてきていた遠藤誠・競技委員に話しかけるなどして、孤独な時間をまぎらわした。
「ティショットは別に気にならないんです。でも、パットやアプローチの微妙なショットになると、一人じゃ集中できなくて間が取れない。で、7番みたいなイージーミスが出ちゃうんです」。
それと、ひとりだと、『イージーミス』を出したあとの精神的な影響も大きいという。
「ミスのショックが全部自分に来るんです。誰にも話せないから、気がまぎれなくてダメージが大きくなっちゃうんですね」。
2日目は3オーバーからのスタートで、3バーディ、1ボギー。通算1オーバーと盛りかえして予選カットラインにすべりこみ(カットライン:通算1オーバー49位タイ)決勝進出を果したが、「あと2つ 3つ獲れてもよかった気がする。もう少し行き(伸ばし)たかったな…」と渋い顔。
「3日目以降は、ぜったい3人でまわりたいよ。決勝はさすがに大丈夫だよね。棄権するひといないよね」と、翌日の心配をするほど、ひとりぼっちのラウンドに懲りた様子だった。