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“ゴルフ伝道の旅”が今年もスタート

ゴルフ伝道の授業はまずスナッグゴルフコーチングセットの寄贈式。生徒を代表して4年生の浜口丈くんと3年生の神田海音くんにアイアンに当たる“ランチャー”を手渡した
2009年2月から始まったジャパンゴルフツアー選手会による“ゴルフ伝道の旅”。オフシーズンを利用して、全国各地の子供たちにゴルフの楽しさ、素晴らしさとともに、夢を持つことの大切さを、選手たち自らが伝えて歩こうという取り組みも、2年目に突入した。

2月5日(金)。今年、最初の“訪問先”は、兵庫県加東市の三草小学校だ。創立138年の同校を担当する“伝道師”は、選手会理事会で満場一致で決まった。同市内にあるABCゴルフ倶楽部は、毎年11月に開催される「マイナビABCチャンピオンシップ」の舞台でもある。
ゆかりの地にほど近い小学校で、127人の子供たちを前に“教壇”に立つ選手は確かにこの人しかいないだろう。

今回、指名を受けたのは同大会のディフェンディングチャンピオン、鈴木亨。43歳は、昨シーズンの最年長優勝者でもある。現在の賞金シード選手の中では、最長の14年連続シードを持つベテランはしかし、今回の訪問でたとえ子供たちがゴルフに興味を持ってくれなくともそれはそれで構わない、と考えていた。

「ゴルフでなくとも、野球でもサッカーでも何でもいいんです。それよりも、何かひとつでも子供たちが得意なものを見つけてそれに打ち込めるきっかけを与えてあげること。またそれを通じて強い心が持てるようになれれば」。

そんな思惑は図らずも、同校の鷹尾千香子・校長先生と合致した。
ただでさえ、子供たちには夢が持ちにくいと言われるこの時代。まして“プロ”と呼ばれる世界はどれも狭き門。

今回の特別授業の“1時限目”にあたる、スナッグゴルフの実技講習会が始まる直前に、鷹尾先生はおっしゃった。
「たとえば野球選手になりたいと今は思っていても、失敗したり挫折する子たちが大半でしょう。でもそのときに粘り抜くにせよ、諦めて別の道を歩むにしろ、その壁をどう克服していくか。現実をどう受け止めるのか。そういう力を身につけることが、一番大事なことなんですね」。

その言葉に、鈴木も大きく頷いた。思いを強くして、子供たちが待つ体育館に向かった。さっそく目を丸くした。驚いた。
子供たちの球を打つカンの鋭さは、予想していた以上だったのだ。

実は小学校には珍しく、同校にはゴルフ部がある。校舎のすぐ裏手に見えるゴルフ場「ヤシロカントリークラブ」の協力を得て、4年前に設立された。
部員数は現在11人。休憩時間に見学にやってきた同クラブのキャディーマスターで、子供たちの指導係の芳井圭さんは、「実際はうちの芝生で転げ回って遊んだり…。まあ、まずはゴルフと触れあう第一歩になれば、という感じなんですけどね」と、笑うがそんな背景があったから、子供たちにとってもゴルフはわりと、身近なものだったのだ。

それに、なんといっても鈴木が5年ぶりの8勝目を飾った昨年だ。最終日。4年生の臼井梨乃さんは、ご両親とともに観戦にやってきたが、中盤からあいにくの大雨で、後半は自宅に帰ってテレビで観た。連覇を狙う、同じ最終組の石川遼を振り切って、優勝を飾った。

「あのときの選手が私たちの学校に来て下さるなんて……夢かと思いました」。
いまはバレーボールに夢中という臼井さん。プロゴルファーになるという夢は、それまで「第3候補くらい」にあった。「でも今日、鈴木プロに教えてもらって“第2候補”になりました」と、ひとつ優先順位が上がった。

小1からゴルフを始めたという4年生の藤原大雅(たいが)くんは、クラスメイトにグリップやら打ち方やらを、プロに代わって指導する親切ぶりで講習会の最後には、なんと憧れのプロと直接対決するチャンスを得た。
「プロと戦う機会なんて、きっとこれが最後」と、嬉々としてティアップ。
第1打こそあわやホールインワンのスーパーショットを放ったが、2打目からは意志に反して、ボールはあっちに行き、こっちに行き…。四苦八苦でようやく「6打」でホールアウト。対するプロは「3打」でみごと的に当て、藤原くんは敗れた。
がぜん、やる気がわいてきた。これがプロとの“最初の対戦”にするためにも「もっと練習しなくちゃ。そしていつか、鈴木プロにも勝ってみたい!」。

そして、挑戦を受けた鈴木も臨むところだ。石川遼がツアー初優勝を挙げたのが15歳。ひょっとしたらもう5,6年もすればこの中からトーナメントの会場で、ともに戦う子が出てくるかもしれない。
「そのとき僕は49歳。シニア入りを目前にして、みんなと優勝争いが出来たら嬉しい。そして、あのとき鈴木プロに、スナッグゴルフを教わった者ですと、言ってくれる子が出てきてくれたらもっと嬉しい!」。

本当に、そんな瞬間が訪れたら……。そう考えるうちに、いてもたってもいられなくなった。子供たちに、もっともっとゴルフを好きになってもらいたい。欲が出てきたのだ。

講習会のあとで、鷹尾・校長先生に思わず提案していた。今年10月、ディフェンディングチャンピオンとして、再びここ加東市に舞い戻るとき。「もし良かったら、週の初めにまた学校に伺います。それか本戦に、お子さんたちを会場にご招待するっていうのもいいですよね……!」。

子供たちのというよりは、むしろ鈴木の新たな夢が大きく膨らんだ瞬間。「勉強させてもらったのは僕のほう。パワーをもらったのも僕ですね」と、我に返って照れ笑いした。

②伝道師のお楽しみのひとつ、恒例の「給食の時間」
③鈴木亨が語る43年のゴルフ人生

  • フルショットのデモンストレーションに拍手喝采を浴びる
  • 「筋の良い子が多いよ」と、次第に指導にも熱を帯びて…
  • 「上手な子が多くてほんとうにびっくり!」と鈴木
  • ゴルフを始めて4年目の藤原大雅くん(右)は「プロと対戦出来るなんてきっとこれが最後」と思っていたが…

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